連載【第026回】: 散文詩による小説: fluctuating fabric 1

 fluctuating fabric 1
 それは、空虚という実体を内包したものなのかしら? 意識が物質過程に関与するということは、そのような見方が必要なのではないか、そしてそれはすでにそれ自体がエネルギーでなければならないとも考えられるわ。

「だとすると、ぼくが必要なのかもしれない」
「ぼくって? どこにぼくっていうきみがいるの?」
「ぼくはいないのだから、だれにも見ることはできないし、ぼくの居場所をいい当てることもできない」
「そんなことはないわ。声のするところにいるに決まっている」
「声は音波だけど、形ではないんだよ。だいたい、ぼくは生まれてもいないんだ」

 たしかに、声のするところに何ものもありえないし、声のない方向にすべてが囚われているとも思える。だってわたしは囚われているのよ! 何もない周りから。

 そのとき、何かが届くか届かないかの、判定さえつかない境界のあたりで、妙な光の塊が形を変化させながら発光していた。

「ぼくだよ、ぼくがやっているんだ。声だけだと定まるものも定まらないからね」(つづく)

連載【第025回】: 散文詩による小説: narrative of revenant 3

 narrative of revenant 3
――おれは頭蓋骨だけで生き永らえているのだ。おれの輪廻転生はこの頭蓋骨に凝結し、おれの呪いも、おれの残虐無比も、ここにきわまっているのだ。

 髑髏は宙宇の一点に静止して、闇の根源である暗黒点のように、そこだけ無限の深い暗がりをつくり、暗箱の中にしかありえない絶対黒色の描線で、頭蓋骨の全ての稜線を描き出していた。

――わが裔よ。数億年を古りたわが血の(うから)よ。おれたちは頭蓋骨だけで生きている。おれたちの永劫の魂はこの骨の中に封じられて、決してどこにも去ることはないのだ。おれたちの肉が滅びようと、おれたちは地を充たす地の塩となって、死ぬことはない。時がおれたちの味方だ。世界の滅びも、おれたちには無縁だ。
 おれたちは純粋に本来的であって、冒されるべきものではない。なぜなら、わが眷属は人類の唯一の始源だからだ。おれたちにはすべてが許される。わが眷属は神なるものさえ凌駕する(うから)だからだ。

 数億年を経た黴臭い澱んだ空気が体内を侵してくる。なつかしい死者たちの塩が、脊索動物ゲノムの歴史が、部屋に、体内に充ちている。名づけうべくもない戦慄、その兆し。
 闇の本体と化した髑髏は、全ての暗黒を呼び寄せる動きを終熄させたように見えた。そして、その暗黒自体がまるで光の性質をもつもののように、漆黒の闇を黒々と燦かせた。
 次の瞬間、髑髏は周りの何もかをも根底から破壊するような凄じい速度で部屋の中を疾った。その行手には光を遮るカーテンと窓がある。遮断するあらゆるものが吹き飛び、大きな爆発音とともに粉々になるさまが予感された。そして、粉砕時の轟音が耳に達したかのような錯覚に囚われる。

 しかし、髑髏は窓に衝突すると同時に、まるで吸い取られるような具合に、音をたてることもなく、忽然と姿を消したのだった。(幽鬼についてのナラティブ)

連載【第024回】: 散文詩による小説: narrative of revenant 2

 narrative of revenant 2
 どれほどの長い時間が経過していたのだろう。ほんとうはわずか寸秒のことだったのかもしれない。浮游する顔は初めから色彩を失っていたが、首だけになると、褪色した薄い皮膚はみるみる涸び、ついにはかさかさになって剥落していくのである。鼻梁や耳朶もその形を崩し、軟骨がこぼれ落ちる砂のようにさらさら音をたてて空中に四散していく。ただひとつその姿をとどめているのは、剥き出しになった裸の眼球である。網目状の毛細血管に絡みつかれ、燠火や鬼火を思わせる血の塊となって膨んでは萎む眼球が、闇の中で妖しく炯っていた。

 なんというおぞましい事態。死そのものの無機性である頭蓋骨の中央で、不吉な生を暗示する怪異な二つの眼球の蠢き。それは、睡眠時の瞼の下で活溌に跳ね廻る眼球運動の、見ることへの異様な執着!
 髑髏は空中の一箇所にとどまることをせず、後方に退いてはまた目前にまで迫り、まるで球面を無軌道に滑りつづけるようにしてこちらを威圧し、執拗に、見ろ、よく見るのだ、と繰り返している。そのうちに、骨の廻転体に象嵌されている眼球の、青灰色の中心近傍も、どんより濁った暗灰色に変じ、血脈によって隈取られていた暗褐色の外縁部も、涸いた黒い色へと色調を落としていった。それからしだいに眼窩の闇へと沈んでゆき、そのあたりは落ち窪んだ翳りだけがつづく深い洞窟を思わせた。

 形骸と化した髑髏はなおも飛び廻り、幾度となく目の前に迫ってきては、純白に光る歯ばかり並ぶ口蓋を噛み合わせ、まるで喉笛に喰らいつこうとでもしているように見える。闇に浮かぶ白い髑髏、それは己れの躯を捜し求めているかのようだった。(つづく)

連載【第023回】: 散文詩による小説: narrative of revenant 1

 narrative of revenant 1
 その形象が訪れたのはそのときだった。音もなく開く扉。爛々と光る眼球の気配。薄汚れた長い布を肩からすっぽりまとった何ものかが暗い空間に漂っている。

 おれの末裔、おれの分身、一族の者よ、幽霊は語った。いや、語ったわけではない。そのようなことばの渦を闇の中に注ぎ込んだのだ。

――生を享けて以来、おれは悪逆の念としてこの世界を呪い続けていた。おれは特別な悪人だ。だが、どうしようもなく純粋な血を持った者だともいえる。おまえたちの母親はみな自ら進んで、このおれに抱かれたのだから。

 そのことばを呑み込むことは困難だが、なにかしらぼんやりと寛いでいて、なつかしい匂いを嗅いでいるような気がする。しかし、幽霊は物質として存在していた。夢魔や妄想の類とは思われなかった。手を伸ばせば確かに触れることのできる、ものそのものの性質にあふれていた。長い髪の毛や顎を蔽った髭、全身を包んでいる布が、窓から侵入する夜風に煽られ揺れている。けれども、その質感、その波打つ動きは金属的な硬直性を持ち、機械的な顫動を思わせた。だからなおのこと、幽霊の表情や仕種はこの世のものとは思われぬ脆弱な印象を与えていた。自働人形のぜんまいが跡切れようとして、最後の瘧にうちふるえる瞬間のごとく――。
 その繊細さは、いつでも存在を何か別のものに転換できる性質の現われでもあった。肉体そのものよりも、それ以外の部分に濃厚に感じられる存在感――。表情や仕種の妖異さ、独特の雰囲気は、おそらくそのような部分から発しているのだろう。見つめつづけると、あまりに酷薄な冷気が伝わってくる。それはまさしく空間の虚無だった。身も心も凍結させる空虚であった。

――おれが何ものなのか、おれの本体が何であるか、おまえは見なければならない。おれはありきたりの蒙昧な亡霊どもとは異なるのだ。いいか、よく見ろ。おれの衣の下を見ろ。

 闇に鎖されている部屋の中で、幽霊を中心に、夜より暗い、真っ黒な渦が巻いている。いたるところで微細なまでに振動する空気の、そのすべての粒子が、全身の肉襞に鋭利な歯牙となって喰い込み、噛みついてくる。幽霊は振り払うような素早さで薄汚れた布を放ち、その大きな布は嵐の海面を漂うように宙を舞った。布の向こうに捉ええたのは、凄絶な青味さえ帯びた、どこまでも貫いて透き通る空間だった。何ものもない荒涼とした空虚、無そのものの上に、首だけが浮かんでいた。そして、空洞に固着した首が奇怪な表情のまま硬ばって、こちらを睨めつけている。(つづく)

連載【第022回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: missing acts 2

 missing acts 2
 その部分は遊離しているのではなく、無知であるために包括的に独立しているのかもしれない。それは知的な認識という回路を必要とせずに、たんに気づかないでいるというだけ。気づかないふりをしているということとは違うのだが。あるいは純然として気づかないということ。だから、君が誰で、そのときどこにいたのかと問うたところで、その質問ははぐらかされ、ただ吸引されて、反問されることはない。無視されているのではなく、空っぽの向こうに吸収されつづけていくのである。
 だが、気づいていないことと知らないこととは根本的に違うのと同じように、気づくことと知ることは永遠に結びつかない。自分が自分の内部にある空っぽ、あるいは内部にないはずの空っぽに気づくことは不可能だが、自分が空っぽの部分を持つことは知りうるし、まさしく空っぽ以外の何ものでもないことを知りうることも可能なのである。

 この関節の、いたるところにあるリウマチ性の結節は悪性腫瘍ではない。それでも、まるで甲羅をまとって身を守るように、いたるところで発現している。それは無知という空洞を守る意識と同じだ。だから、その部位は叫ぶことが可能なのである。あるいは叫ぼうとすることが可能なのである。けれども、もちろん、その方法もことばも知ることはない。神経反応という苦痛、苦痛という意識の非在、その悲鳴だけが!(欠落行為)

連載【第021回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: missing acts 1

 missing acts 1
 必要なのは破裂することばなのだ。地核での眠りから地表に上り、地面を伝って中足骨からいくつもの関節を跳び越え、脊椎から頚椎、頭骨へ、さらに骨格にまとわりつくあまたの血管を辿り、太い大動脈を引き裂いて、脳漿を膨れ上がらせ、ついにすべてを粉々にして、破裂すること。寝静まって、だれにも見つけられない真夜中のいたるところで、一瞬の、激しいひきつりが発現する。それらを起点にしていくつもの痙攣が波動となって打ち続き、その長い長い苦痛こそがことばのprimary tumor。粉砕された輝く無数の細胞の切片を巻き込み、熱く滾る血液、脳みそ、肉片の飛び散る渦、気化する状態のタイフーン。なによりも切実な痛みの群体!

 こう書くこと自体、破裂するのだ。そうだ、もう私を好きにさせてくれ。筆順も字画も忘却し、書字という行為自体を喪失するために。それは省略とか錯誤のためではなく、ことばを獲得するための欠落行為となって。私自身が欠落しながら、それを取り戻せないで、取り戻す必要もなく、ひたすら失い、失われてしまいたい。だから、私を好きなようにさせてくれ。すでに文字として記述されていたとしても、それらは不連続の欠落なのだから! 欠落したそれぞれの関節の部位は回転しようとするのではなく、軟骨との接触を断ち切ろうとして、痙攣を始める。

――わたしにも、思いあたることがあるわ。
 わたしの義父にあたる老人が植物状態に陥る寸前。頭部の皮膚の表面と血管と神経は部位ごとに独自の塊をなそうと、白く、赤く、青く、土色に、まだらに、ぶつぶつと、それぞれの部位を幾度となく不規則に膨らませては縮める。一晩中、顔面を痙攣させ、こめかみの静脈が通常の十倍には膨らんでは縮み、顔面の神経が異物のように激しくひきつりつづけ、唇や顎がとめどもなく意味のない運動をし、眼球はあてどなくぐるぐる旋回する。一晩中、まさしく一晩中、脳内で異物がひっきりなしに暴れ回るように、人間の顔のあらゆる奇怪な動きの可能性をすべて現してから、彼はただ一度だけ、意識を取り戻したわ。そしてその直後、まる一年間の最期の眠りについたのよ。それは、あまりに静かな、起伏のない、それでいてまさしく肉体そのものである意識の形骸。いいえ、意識そのものの。直接的な感情のない身体構造! 最期の覚醒の一瞬にふたつの眼球がうつろな球体の奥を透かして、ぎろりとわたしに視線を凝らして。
 いいえ、それは違うのかもしれない。たんに無知の、切り離された意識なのかもしれない。どことも結びつかない、切り離された、分離された部分。でも、それは部分というべきではなく、分離され、別個のものとして、独立した全体というべきかもしれない。別の全体ともいえるそれは、何かを知ることができたのかしら。つまるところ全体でしかありえないそれは、そのことによって、たんなる空っぽなのかもしれないのに。(つづく)

連載【第020回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: all gravity 2

 all gravity 2
 皮膜は確かにあるのだ。BにおいてB´は隔てられたものだ。重力と磁力が溶融しているような状態ではすべてが見えなくなってしまうように、皮膜のあちらとこちらの磁場がそれぞれに高温にさらされているのかもしれない。その安定しない状態にあることで、あらゆる事象との結合が容易になっているのだ――あるいは散乱現象。Bにとっては皮膜が熱によって混濁すればするほど、内部に押し込められることからいっそう離れた場所にいることになるのだから。
 斥力は引きつけあう力をその出自にしているはずだが、その根元であるすべてが平坦(フラット)な場所、つまり力のすべてが内側に押し込められている状態を原因にして弾けてしまっているということになるのだが、それはじつは跳ね返る重力というものを、そして重力はどこに行きつくのかということを暗示させざるをえない。
 だが、問題はBやB´も純粋分離しているのではなく、意識(、、)意識(、、)であるということだ。いや、そうではなく、「その(、、)意識」であるということなのだ。
 意識はそれ自身で存在できないのだから、そのことからどのように脱け出ることができるというのだろうか。そのようなしだいであるから、意識Bと意識B´は連続的に抑圧されているに違いない。――何に?

 けれども、熱を帯びて全方向を失い飛び散っていく意識Bと意識B´は互いの空間的距離、あるいは同様にすべての記号と記号´との間の距離を広げていく。
()()()()()()()。そのことは、()()()()()()()時間的距離も広がっていくということだ。時間も空間も個別だから、力というつながりを残したまま新たな皮膜に囚われているということになるのかもしれない。もちろん、低温状態のそれぞれは独自性を獲得し、つながりを見ることはできない。なぜなら、ものとものとの間はすっかり晴れ上がっているからだ!
 そして、限界まで離れてしまうと、新たな問題が発生する。すべての力が重力にすりかわっているのだ。それは、ふたたび死と強制の道を意味するのだろうか。引きつけあうこと、結合していくこと、宇宙の全重力がすべて重なっていくこと!

 私は私の意識が多重性をもち、複数の重なりであることを否定するつもりはない。私自身を含めて私の意識たちが囚われているに違いないことはうすうす感づいている。本当のところ、私たち意識の問題は、私をとらえている私たちの直接的な皮膜にすべて起因しているのだと。私の意識がいくら重力についての議論をしていても、意識におけるすべての問題はこの直接的な身体機構にあることを。(全重力)

連載【第019回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: all gravity 1

 all gravity 1
 皮膜などはたしてあるのか。BはB´に対して方向性を持っていると仮定すべきだ。なぜならBとB´には互いに異なった磁力が存在しているからだ。BとB´の引力と斥力の混沌は極大に達しているかもしれない。そうだとすると、それは何に起因しているのか。
 異なった磁場を持つということは、皮膜の内部がキュリー点に達し、そのことによって、それぞれの磁力が崩壊してしまうということなのかもしれない。いずれにしても、方向性などまるであてにならない。

――意識Bよ、〈私〉の内部にはおまえなどいたためしはないのだ。〈私〉はおまえとは無関係な領域におまえという非在を内包しているのだ。しかし、それは二つの意味で、おまえは〈私〉を絶対的なものとして捉えてしまっているということになる。つまり、〈私〉がおまえと無関係だという点においておまえは〈私〉に関係を強制しているということ、また非在を内包していると〈私〉にいわしめることで〈私〉の非在を明かしてしまっているということ。そのような混乱が増大すれば、元には戻らない。〈私〉はもはやおまえを認識さえしていないのかもしれない。相手のいない譫妄に陥っている〈私〉は、磁力に従っているというよりも、意識Bそのものに遷移しているといえるのだろう。意識B´を喪失したおまえそのもの、意識Bとして。(つづく)

連載【第018回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: blood wedding 2

 blood wedding 2
――まさに〈私〉が息を終えようとしているその刹那に、〈私〉を唆して飛び立たせようとするものがいるのだ。〈私〉は羽撃くものではないし、翼、鰭、跳躍に適う強い脚をもつものでもない。天使のように無残な光輪も、醜く硬直した幼児的な微笑も持たない。ただ、たしかに深い憎悪と鋭い敵意を抱きながら囚われつづけている、まさにその接触面にいるのである。〈私〉を解放しようするものが現れたとしても、〈私〉はその欺瞞と悪意を見破り、何ものに対しても完全な侮蔑と敵意を失うことはないだろう。〈私〉はあなたに対してさえも、またこうした自分自身の重複せざるをえない意識の連鎖に対してさえも、〈私〉を囚えているものに対する反抗と同質の〈反抗への意志〉を欠かすことはないだろう。

 意識Bは遠い宇宙の起源、物質の起源の記憶を持っているのだろうか。完全なる反撥とは対称性と関連している。粒子と反粒子は、どちらがどちらを生成させたのか、あるいはどちらが起源なのか。そこには電磁力というよりも重力の秘密があるようだ。空の状態から物質と反物質が生まれるということは、空の場からさらに二つの対称性を持つ場が生まれたということにならないか。空は消滅するが、重力はそれをこの二つの対称性に分かつと同時にその根元であるから、そもそも二つは重力によって惹きつけあうのだ。そして、いずれ、遠い距離と時間を経て元に回帰することが予測される。
 意識Bは孤立した反抗者だが、生成したのか分裂したのか、内包なのか外延なのか、いずれにしてもそこには徹底した反抗する分身が存在するようだ。

 意識Bの分身であるB´は、Bと同時に、異なった磁場でモノローグをつづける。つまり、Bのことばの底にB´のことばは含まれ、B´もまた匿されていたのである。そのB´はすでに失われた者たちの列の向こう側にあり、暗い眼窩の奥にある空虚は蒼く銹び落ちようとすることばの(ほむら)に閉ざされている。B´にまつわる記憶といえば、ことばの持つ磁力と重力の激突を想起させるハレーションというべきかもしれない。ただ、ときおり、血腥いものが曲面と曲面のつなぎ目、曲率の移動するあたりに沁み出していた。それはB´が重力を認識しはじめてから、B´の内部へと沁み込む重力の形象。B´の内部はBの失われた領域、非在という部分。(血の婚礼)

連載【第017回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: blood wedding 1

 blood wedding 1
 地面を引きずって徘徊するその意識は、決して地面に引きずられてはいないのだと叫ぶ。だが、天井からは継母の祝福されざる黒い血が滴り、屋根裏部屋の床一面には重力の破産を示す熔解した天体の落下の痕跡が見られる。痕跡は鉱物の形をとるのか、植物の姿となるのか、あるいは生々しい肉そのもの……。すでにこの世を後にした意識は、物質と物質との関係は、意識と物質、意識と意識の関係でもあるのだと言い残していた。その意識が向かったのは、向こうから押し寄せてくるものがとうてい看過することのできない反撥と激突とでもいうべき鋭い亀裂。

 意識Bは逃れること、逸脱することはできない。だが、本当にそうなのか? もちろん、BはB自身をつなぎとめておく。そうすると、BはB自身にとって誰なのか? BはB自身を押し潰そうとしている範囲に囚われているだけで、その一部、あるいは付属しているものではない。たしかにBは奴隷のような存在であることを強いられてはいるが、敵意を失っているわけではない。Bは堪えているに過ぎないのである。――何に?
 私はここで素朴な疑問に直面する。いったい誰が、その薄い皮膜がどちらに属しているのかを知っているのかと――。(つづく)