作成者別アーカイブ: 緑字斎

未刊行詩集『空中の書』15: (林檎の研究を)

(林檎の研究を)

林檎の研究をしている友人に次のような話を聞いた

虫が涌くときに森の番人が注意しなければならぬのは 虫の口から漏らされる液体を中和することではなく 果実の中に棲む生命の素が暴れださぬように手を打つことである、と

未刊行詩集『空中の書』14: 魂の滋養

魂の滋養

受話器から洩れる魂の誘惑 あくことない耽溺 室内の細い光が街路へ抜ける 電灯の軋みを合図に地図に記されていない町まで疾る 到着したのは約束の刻限を大幅に超過してからである 暦の下で困惑する少女よ 廻転扉から歴史は始まる 青いぬめ アルミニウムの鏡板パネル 古色蒼然とした円舞曲ワルツ 腕の交叉は下半身にて破られる 折れ曲った肢体から尿のように噴き出る夢 魔物の影が漂う 長い鎖を静かにインク壷に漬け夜啼きの烏を描く 闇はいっそう深まりついに凝固する 仕掛けのある空箱に棲む花嫁 鰐の恋人よ 純白の下着が義歯とともに外される 瞑想など不要だ 皓々とした珠玉が爪が言葉が黒々と伸張している 南の島では五色の慾望が 瞼の下では蝋燭が 天井から風がそよぐ 星々の移動が突発的な予定調和をしでかす いびつな乳房 二つに割れる乳暈 鋭い腰 沈み込むような尻 深く愛すると肉体は泥になる 頭脳も鬱血する 髪の毛に毒虫が貼りつき赤い舌を覗かせて冷笑 季節が外れると関節に痛みが疾る 押し寄せる齢とは一条の螺旋であろうか 背中から尾へと向う刃物 魚の臓物に南十字の吐息が匿され旋毛風が舞う 水道路の遺跡から登場する生物は両足を揃えて跳躍しながら磁気を食す 星間物質は倉庫で逼塞している おお鏡の中で燃えつきる踊り子ダンサーよ 挨拶を交わす さすがに疲労は隠せない 面影のうちに種属もなく調理人の熱いまなざしもなくただ往き来する書物の記名がなびいている たとえば硝子張りの字引きとか棲処を失った羽虫 溝の消えたレコード かすかな思い違いから鍵を紛失する ひからびたしがらみに映じる幼児の幻惑 祭の爆竹がはぜる 走馬灯に初寝の影が添えられる 地震の起ったときに寄宿舎の屋上から海の彼方の炎を見る 洗濯物は竿に吊られて濡れている 電信柱には骨盤 嫌な顔をするな 鉄拳が飛ぶぞ 裏通りには首のない変死体 壁の中には数奇の運命を終えた老婆 館には魍魎の出没の儀 夜は更ける いやまして絢爛の夜 数軒の呑屋を経ても薔薇の花束はしおれない 睡魔の中で次々に裸にされる少女 低温で茹られる黄身 女どもが真っ先に弑される 恋人を下水管に流した男が強力な下剤を服む 受皿に果実の種が落とされる 体を引き緊め酒をあおる 夜風が実に快適だ 遠心力の効用とは客船を見事に沈没させる点にある 緩慢な波を分けて蒸気機関車が青白い烟を吐く 海底に向って老衰する 古代語は白蟻によく馴染んでいる ともに魂の滋養だ 筋肉から弾き出て素敵に印象的な紅蓮の布となる めくるめく即興曲 幻妖なる画布 不思議の国の扉 不眠症の決り文句だ 柱時計が酸化する 火傷を何度も負う 夜が明けても空は暗い 羽を借用して雨の朝を渡ろうか 空白の数行とともに

擬宇宙論:52826: 〈美術衝動〉作品「反-次元のかたまり」1?5

〈美術衝動〉作品「反-次元のかたまり」1?5

 ひもエネルギーが単純化された配置で、物質と空間を締めつけている。その傍らで次元のかたまりらしきものが物質の部分を垣間見させている。
 また、真空の中に匿されている白いのっぺりとした反-次元のイメージは次元のペアである。

[作成時期] 2007/05/02

未刊行詩集『空中の書』13: 脣の赤い少女

脣の赤い少女

睡りの前に少女のかかとを見る ガラスのように尖った神秘が眼の中を疾る ほそい骨とアンスリウム、夢を充たす妖しい香り 階段は世界の貌 風とともに日々を駈ける えたいの知れない白い影が背中を蔽う 喉が渇く 手を伸ばして冷たい水を啜る ビールは明方のためにとっておこう 烟草が沁る 隣には裸の女が眠っているので音楽は流せない あなたのために父の通夜を準備するわ、死者の肉を刺身にすると魂は永劫不滅よ 扉を敲く音は精神に悪い 掌は手首のために造られ、指は心臓を掴むためにある 電車の中で黄色のブラウスを着た娘を眺め、返された視線に頭がかすむ 西瓜の種が絨緞に埋っている 鳩尾の疼き、力のない咳 ほそい露地で自殺した男の密葬が行われる 夏らしくもない長い雨、一人三合と書かれた貼紙を見ては独酌の手もふるえる あたたかな女児の膝に触れて見上げると、童女は死体を刺身にしている 澄んだ瞳と真赤な脣の童女の首はない 羽蟻が涌き出し建物は水蜜桃のように朽ちてゆく 夜明の晩、後ろの正面、童女の群が不吉な輪を作る 教室で食事をしている子供らの前で、禿頭の男がコッペパンを御幣にして神妙に坐っている 扇風機から洩れる古い風、呼吸をおびやかす風 絨緞に埋った骨は見つからない 戸棚から銅貨を盗み出した少年は翌日まで帰らない 化石を採りに山へ登ると強姦現場に達していた ハンカチーフには血のしみがつき、後ろに置かれた少女の指先には涙 睡魔とともに雨が降る 軒下の下着が盗まれる 少女の膝は成長にしたがい冷えてゆく 地下鉄のホームで会ったときには疲労の色が濃い 緋色の衣裳が翻る 顕微鏡を覗くと、尻尾のある無数の悪魔が蠢いている 教師は少女を集めて秘密の講義をする 数日後、辞令が出て僻村に逼塞する 色の黒い女生徒が後をつける ほそい脚には投げやりな愛、シャツを破ってからは二度と出会わない 漁港で身を持ち崩しているに違いない 肌色の鳥が四肢を広げて夢の空を翔けてゆく 醜くもあり美しくもあり、眼の中はいびつに

擬宇宙論:52821: 〈美術衝動〉作品「CMB(Cosmic Microwave Background)」 1?5

〈美術衝動〉作品「CMB(Cosmic Microwave Background)」 1?5

 宇宙マイクロ波背景放射をテーマにした5点。
 ビッグバンから40万年後に宇宙はプラズマ状態を脱し、「宇宙の晴れ上がり」という時期を迎える。この透明で冷えた空間に放射されたマイクロ波(光子)は宇宙全域に及び、この検出がビッグバンと膨張説の証拠とされる。
 ひもの曲線のパターンと研ぎ出しによる下層の絵具の斑模様が、宇宙膨張によって赤方偏移を受けた光子のイメージでもある。
 マスキングで切り抜かれた部分は、匿された次元、露出したこちら側、あちら側。

[作成時期] 2007/05/02