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〈存在と宇宙論〉20060428: 「宇宙音楽」の事象地平ビッグクランチ

「宇宙音楽」の事象地平ビッグクランチ

僕はmicaのように
剥がれ落ちるべきものが好きだ
か細い線、透明な薄片、かすかな光
ある種の記憶のような

僕はmicaのように
重なりつづけるものが好きだ
色彩がとどこおり 消えてゆく平面
忘れうべき記憶のように

近づいて裸眼で凝視すべきである
重層するプレパラートに
複雑な罅割れが生じ
僕は閉じ込められる

幾多の異相が 本当は一つであるように
こちらに光があるのか あちらに光があるのか
物質は存在するのか しないのか
僕はそのあわいの事象地平ビッグクランチで押しつぶされる

第12回個展にて
[作成時期] 2006/04/28

擬宇宙論:4901: ものの誕生と復元力

ものの誕生と復元力

何もない状態からまず二つの状態に引き離されるためには、何もないことと宇宙的規模の何かあることとに釣り合う規模の大きなエネルギーがなければならない。そして、この巨大な釣り合う力は飛び出していくと同時に元に戻ろうとする。つまり重力は元に戻ろうとする力、復元力であり、そこから生じた物質のそれぞれはさらに引き離され、またそれぞれにネズミ算式に引力を分割、分裂、多出させる。これはまたエントロピーの正体ではないだろうか。
物質は分割、分断されることで、+?の重力エネルギーとそれぞれの元の記憶(情報)を保持し、宇宙膨張をもたらす。しかし、その+?の力の限界(力は無限ではなく、発生したときの総量のバランスであるに違いない)で復元する方向へ収縮するのだろうか。
問題は、ある物質がある力で分割されるときに、引き合う力、つまり元の物質の情報を保持する重力が生ずるということであり、その最大の力こそ、最初に真空から分割された物質間で発生するものだということである。
重力はひものように二つの物質を結びつけ、そこにある力とは「復元の情報」なのではないか。
この復元のひもが断ち切られたとき、その物質は元の重力、宇宙から逸脱して別の宇宙へ、あるいは新たな宇宙の始源となっていくのかもしれない。
ひもには、その宇宙の始源からもともとひとつであった、分割されたあらゆる物質の結合経路が刻まれているのではないか。

ちぎれた粒子のちぎれたひもは、新たな真空で、ちぎれたひもを修復しようとする。そのため新たな反粒子が生まれ、新たな粒子-反粒子のペアができる。ここに新しい物質の連鎖が始まる。

2007/09/06

緑字生ズ 074 (脂の浮いた甲を……)

74

脂の浮いた甲を包む、赤いエナメルの靴
地下鉄が空を走るなんて!
まつわらぬ糸の女の顔を思いながら
高架の下を歩いていると
通り過ぎる友人に気づいた
楕円形の好きな男である
白い指で笛をあやつる男は
ときおり茨で編んだ冠をして
牛とか羊が好きだとも言った

まじめな聴衆を嚇すように
星の囚人列車! と叫ぶと
男は背を丸めて笛を吹いた
光は硬い、そして二度と出会わない
樹木は灰になり、黒衣の女は自殺する
そう考えて、男は調子っ外れの音を発した
哄笑の中で、膝を屈めて
この思いを人は知らないのだと悟った
男は鰐皮の鞄を抱えて
船員のように走り去った

高架の下で見た横顔には
希望がロープでくくられたような
死の匂いが沁みている
道筋の向うには糸のような月
その下で
夜の森と肉色の街の灯が接している

緑字生ズ 073 (新聞配達人の……)

73

新聞配達人の投函でめざめる
土の家、水の庭
靴底に鍵をしのばせ
びっこをひく
青い木苺を摘んでから
かたまく細流に達した
その中で硬貨が光っている
テッポウユリの咲いていたあたりは
枯野になっているが
虹がかかって見えた
山々は黄変し、花畑には灰
どこかに噴水でもあるのだろうか
山頂の濡れた展望台に辿り着く
ひと滴の宇宙の全貌――
細粒細工グラニュレイションの雨の模様は女に似ている
想像の力が萎れているのだろう
瞼に指をのせて
痛みを除く
雨宿りのための死の翳うすく
白い煙が立っている
凄い形相で
花を摘み取っていった男たちのことが
頭の中によみがえった

緑字生ズ 072 (愛の現場での……)

72

愛の現場での燦々たるerotic
刺青師は年老いて
姦淫にまたたく股間で
ふるえている
夜ともなれば
女の骸を求めて
気のふれた傴僂がさまよいでる

死のような不協和音――
ヒッサリックの丘では
朝から待っていたように
磔刑の男のふぐりに
涙が落ちる