作成者別アーカイブ: 緑字斎

お知らせ: 詩集「魔の満月」収録の散文詩

詩集「魔の満月」収録の散文詩を公開するにあたって。
本編の詩篇「魔の満月」と同様、本来、無改行の長篇散文詩も可読性の観点から「行分け版」として公開します。

季節 (詩集「浣腸遊び」, 1974)

1 2 3
彷える
甲州街道をメフィストされよ朝未明
ゆらめかれる非在の分だけを空孔
抉られて首都甲状腺に吊るされ
酩酊の碧を群げる樹皮よ反目
抛れる季語を重重くふるえ
りるっ りるっ りるっ
海星られる神さみだれ
枯れつづく意志から
死病ベーチェット
        される呪詛の滴れ
        睡りに記憶からめ
        虫干しなど羽抜る
          りりりり四季
            魂祭れて
              姫姦
山わらえる白檀を失跡されて
小刻む残照から鏡まれて
主辞に埋葬せよ時制テンス
金属するフリージアの潤め
繰り糸の移ろわれ

あるとき
夢が試されて……

〈動詞系〉は己れ自らを抽出して〈主格〉を
支配すべきである

(おれは母音の動詞群を発明した!)

木下闇する難聴
あけおもてる濃霧に昇りはじめて
1 2 3

魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

1 2 3 4 5 6 7 8 9

iii – 2

至高の秘儀ともいうべき王家の処刑は 既に枯死したボウの苑を囲む三つの恐怖の淵に設けられた冥王の座で執行される
エレーア
恋の初峰入り
我が生と死の賜物よ
紫焔に包まれた哀切
その苦悶よ
エルドレは虚ろなエレアの死の瞳を想起する
オルリー公は種々の拷問を加えられた後 第二の冥王の座で狂死する
第三の呪いの座に供されるはずのエルドレは 高僧たちに匿われ フネを駆って彼地を後にしたのだ
宇宙を支配する縄墨じょうぼくはその代償に聖地を第三の冥王の座に就かせるのである
あの赤く膿んだ星天の唯一の故郷は暗黒の斑ヘと変じている
篭目と称される不吉な唄を想起せよ
後門の狼と前門の虎とを併せもつ者は誰か
六芒星の北と南の中央に位置する恐怖の帝国
此地はエルドレに与えられた冥王の座なのだろうか
天円地方と唱えるに相応しい土地を見回すと 暗がりの中に十三個の金色の宝輪を戴いた十三階の塔がある
その周囲に五つの彫刻が見える
エルドレは四角い地面の中央を大壑たいがくが恢然として走っているのを知る
その底から 得体の知れない湯気とともに甘美な匂いが湧出してくる
頭脳を優しくねぶる性質の香り
エルドレは深い亀裂を覗き見る
尻尾の長いもの 短いもの 縮れているもの 千切れているもの
種を問わず 億千もの黄斑点をもたぬ近眼の生き物が 白い長大な門歯を研いでいる

1 2 3 4 5 6 7 8 9

自由とは何か[019] 【最終回】

1 2 3

19
(dance obscura)
 私たちは「肉の広場」ともいえるdance obscuraに集まっていた。私たちはそれぞれ。それぞれの部位であり、細胞、意識。独立したそれぞれ。孤立したそれぞれ。

 最初、私たちは続々と蟻の巣のような地下の館に入り込んでいった。そこは、細胞や組織が多重化されて区切られているキューブの集合体。床と廊下にはびっしりと深紅のカーペットが敷き詰められている。赤い迷路。部屋には壁はなくドアだけで、ランプブラックの黒い柱がしっかりとした枠組みを作り、深紅の扉が襖のように開け閉てされている。そのような室内で、少し青みがかった照明が赤いカーペットを高貴な色彩に染め上げている。それらの部屋をつないで、暗紅色の血液の川が廊下を流れている。紅の館はいっそう深く染められて、炎のように燃え上がる。

 アンダーグラウンド。暗い地下の街。蟻の巣のような館が蝟集しているその中心にあるdance obscuraではダーク・ダンスが始まっていた。私たちの集まりの目的は、このダーク・ダンスを見ることである。

 周囲の館からはゆらゆらと燃える炎が陰影のある赤い光を漂わせていた。その中をまばゆい、細い糸のようなスポットライトが熱気の罩もる空気の襞を射通し、ステージの一点を鮮やかに照らした。バロック風の、繊細な、小刻みに畳みかけるような旋律が静かに流れている。今度は、舞台の下方のフットライトが徐々に光度を増していく。それから、褐色のセロファンが貼りつけてあるのだろうか、ライトの色が切り替わり、退嬰的な淡い光の束が幾度となく舞台を舐め廻す。

 初めのうち、数人の少女たちが裸で現れ、手をつないで、輪を作って踊る。風のように軽やかな若い体、つやつやと靡く長い髪。アンリ・マティスの描く「ダンス」が明るい光の中に現れる。彼女たちは楽しげに踊っている、踊らされている。しかし、それは画家のなせる業ではない。ぐるぐる回り、だんだん早く回り、まるで溶け合ってこちらの視線がバターのように絡まっていく。踊りの輪がいつまでも続く。踊っている、踊らされている、いったい何に?

1 2 3

魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

1 2 3 4 5 6 7

iii – 1

頭脳から天球が生ずる
古びた血から大いなる四海と河川が生じる
そして塩辛い汗からは雨雲が生まれる
泥濘ぬかるみの中を疾風のごとく駈け抜ける七頭の悍馬
神と龍の誉れを戴いた黒鹿毛の駿馬が敗れ去る
人間は宇宙に巣くう蚤だ
偸食の民の頭上に舞う紙吹雪
相手は俺だと言いざまナイフが奇静脈を破る
よしてお呉れよと三十路を越えた女の声
小僧奴と一喝する地廻り
友よ
兄弟
またしても邪魔をするか
時の器に旨酒を注げ
坊主に習った飲酒法で世界の涯まで肥大する
おお因果の正理を無視する幻惑
下駄を履かせて小鰭の鮨でも売らせたい
壁に吊られた死の舞踏の沁るような髑髏の頤
物質の胎内を巡る底知れぬ小径
地球は悪名高いお前の懐中時計だ
斧で天地を開く
五色の石を煉って箭を作る
木を穿って焔を生む
混沌は束の間にうがたれ死をもってて汝らを造物する
詩人は墨に塗れた手で女を愛す
心中に失敗して青春に悔なし
夜々同じ道を辿るのは結婚生活第一の苦行
公園に通じる坂から白楊の樹上に座す膿んだ満月を見る
血の味が罩められた光は闇夜と媾い 牙の生えた鏡が熱い息を吐く
四つの門歯と十二の臼歯をもつ獣の大移動
屁をる美女たちよ

1 2 3 4 5 6 7