作成者別アーカイブ: 紙田 彰

緑字生ズ 054 (眇の売笑帰に……)

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眇の売笑帰に地図をさしだした
市場の隅に
夜の脂がたまっている
彼は旅に出ていて
出立したその朝には
ここまでの道が消えていた

雨が上がると
色の足りない虹がかかる
そのとき眇の女は
変ね 夜だのに
と眩く

祭壇は白い骨で組まれている
乳呑児に舌はない
天蓋には男根がぶら下がる

痩せたリャマが
夜の街をとぼとぼ歩いている
リャマの背の
眇の女の
あてどなく疾走しようという夢

火焙りだ
火焙りだ
人々は喚きたてた

羊皮紙に刻まれた
地図をしまい
地球は停止していると思う
雨が降りはじめ
眇の売笑婦が背を向ける
その白い影に別れを告げる

緑字生ズ 053 (ひとりひとよのふかなさけ)

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ひとりひとよのふかなさけ
ふたりふたなりうしろがみ
さんにんさんずのかわわたし
よにんよるべもぬしもなく
ごにんごくもんぶらさがる

見よ! 権力のなわきれ

緑字生ズ 052 (死装束の姉を……)

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死装束の姉をかき抱く少年
銃と毒
筋肉のわななき
彼らは追放されていたのだ

狼たち
月の輪熊
鉛と砒素

緑字生ズ 051 (僧院でコーヒーを……)

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僧院でコーヒーを淹れる
特別な日
ドイツの農村では
花々が枯れる

ホフマンという男が
聖母像を抱いていた
そのかたわらで
太った尼僧が
青い脚を伸ばした

緑字生ズ 050 (海面に、辷り落ちるもの)

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海面に、辷り落ちるもの
時へ向かう時の皮質
また人骨が出てきた

突堤を駈ける小犬
冬の海が流れている
夜は死に近づいているようでもある

岸壁で砕ける波
愛するふりして肩を抱く
肌がざらざらしていた
涙がにじんできた
沈没した船の上を
ウミネコが飛ぶ

船を待つ旅人
ブランデー漬けの桜桃を
ひとつぶつまんで
彼は酔う

歩痛という言葉
虫歯で死んだ女の
両足に巣くった虫歯の足よ