カテゴリー別アーカイブ: 浣腸遊び

季節 (詩集「浣腸遊び」, 1974)

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彷える
甲州街道をメフィストされよ朝未明
ゆらめかれる非在の分だけを空孔
抉られて首都甲状腺に吊るされ
酩酊の碧を群げる樹皮よ反目
抛れる季語を重重くふるえ
りるっ りるっ りるっ
海星られる神さみだれ
枯れつづく意志から
死病ベーチェット
        される呪詛の滴れ
        睡りに記憶からめ
        虫干しなど羽抜る
          りりりり四季
            魂祭れて
              姫姦
山わらえる白檀を失跡されて
小刻む残照から鏡まれて
主辞に埋葬せよ時制テンス
金属するフリージアの潤め
繰り糸の移ろわれ

あるとき
夢が試されて……

〈動詞系〉は己れ自らを抽出して〈主格〉を
支配すべきである

(おれは母音の動詞群を発明した!)

木下闇する難聴
あけおもてる濃霧に昇りはじめて
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影の山脈 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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一、痕跡する朝ゆきの唄
痕跡する
老犬の宇宙吠え
指掏りの眼底から
単調の霜柱のふる……

朝ゆきの唄
見晴し台から河口へ下る
水銀の薄い層 また
星占いのふやける鼻先から
水底の沈み砂

展べよ 橋の蒸気し
狂える逃走 空放つ
火の仄かな身重 その
みちゆき者の熱い皮膜
夜の道よ!
紺碧の空ただよえば
重い葉の毒の洩れ 海の
彩圧層を ひときわ
繰りなす 拡がる視線魚
睡眠に軟骨を匿れ
瞼の切れ末に 日輪を
陥ちてゆく――

二、光束の山岨ゆけば
光束の寄せ場に
盲点の羅列 耳朶裂け
地平線に汲み上げる陶土ひとかけ
夢に追ってゆくと
影法師のなだれおち
稜線を錐突けば 反射塔の
天果つ 息跡……

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七色分割 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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  ――夜のまっさおな変貌をとおって

ばらふり
蒼白へかすめよ地平線
いみ柴れ骨からむ枯れた下肢
淫祀邪道を地下通路に吹かれて
宇宙を停止 はやばや咲かれて
鼹鼠のふりつづく 霧の墓地
無色の花ふり
花のみの奇怪ふる

そらがけ
夙のつるばらからみをちかちかされよ夢
凍りつける世界を嵌まれる鏡の
ゆらめく底びかりを胡桃占い
田螺つかれ ラガーの戦慄
湊をさみだれる風景や
日時計に軌道する奇瑞や 船出と

忌の日る
ばらふり花弁にかさめよ鏡面
蠕動の巫祝る悲壮に昇りつめ
乱光する黄変に人民前史
ねえ鎌る灰青と黒雨 風を飛乱
狂われよ死界のいきりたつ現在 いずこ
複合のフェニックスよ朝日の死のように
かみそりと連打する光
立体感性なる被包囲の光の光とともに
飛翔される頭脳を割れて
盲を首ひとつに暗転される

朔日たつ
列島に命数せよ

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唄の唄の唄 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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  ――天澤退二郎氏に

唄の剥がれてゆく
濡れ道に伸びる舌
澱みの星に 胸元あけて
白い首から発酵する
混声の空あげ
歯ならびの底うすく浮く
声垂らし 金箔の語のつづれ
舌根のひえた紫泡に
のみこまれてゆく 染紅の残響

移しの陰曲を
空洞の日なたに重ね
木蓮の劇しい山脈かすかに
しぶき しぶき 発声のうらがえり
乳白の盤 飛びこみ宇宙
その彼方 歪んだ雲へ
たそがれ浴びる

眼底の語の襞 ああ吸われ
葉脈の精汁を滴れる
尖角の舵一匹
こもる湿地の崩れ音
耳管にくるめる霧の粒
呑みこんでゆくひまさえみつけて
 ♪鬼の目おちて
  冥土の唄にひえびえと
  ああア お腹の首の声
  鬼の目七つ
  星珠ころげひえびえと
  お腹の お腹の 首の声
唄は剥がれて喉咽を埋める
こまかな海の切端に
稀薄なイリュージョンの色褪せて

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うらうらの声 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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常欲する火の螺態
条痕うすく
蟲ばみのひとり語の
酷いあつさ 破れ天に
酸味の風崩をへばれて
粒らな光の軌跡に
微かな日輪の翔び音
ぼくは 翳のもつれる白昼
暗赤の〈声〉に 蒼褪めていく
すでに 乱れ空のうらうら
豊満な裸体の横たえ
生ま温い暖風の吹き通る
…………………………

花裂ける
薄透明の軟質の空
青い地面のぬけて映る
異物の導入部イントロ
《おれは
 声あげて
 白糸を無数に
 吐きつづける 一匹》
空空の絡めの生理 あの
黄光の気圏に
うわずった半音階の
こもり声

ほそい路地割れの
酸性の臭みが 胃の
透き通る薄襞を蔽い
路地裏の
点滅の花畑に
滞る 尖塔

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浣腸遊びエネマ・ゲームのための十干 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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 基本的には一つの混乱であり、その本質は一種の破壊的な錯乱であるようなものについて、私は語りたいと思っている。
 ――バタイユ「エロティシズム」(澁澤龍彦訳)

 

きのえ。死のような不協和音。
翔びあがるのだ。肉体を研磨して、呪いのかわほりの如き、澄み切ったトラムペットの不協和音の空へ。

唸れ、逆巻く、完璧なまでの窪み。

方位。白亜の花畑のよどみに、純黒のおとがい

たこ。ひらめ。ひとめぐりのばね。

きのと。太白の軌道に架かる胆結石。
造花のみだらな、ふりしきる雨。疑い深い灰色の犬の尾のみだれ。いっそう濁った斑点。

〈声〉の流通圏の急速な縮まり

水圧を耐える考察者の明け方、てんてんとあちこちの腐臭の尖ったにがみ。

おもい腹わたをひきずる。あの巨人の緑色の柔毛の撒かれた時、陽は月に、月は陽に、交換されて、つめたい嵐を溜めていた。

ひのえ。労働は罪悪であり、夢が存在する。
日光浴の裸体にくっつく魔の使徒。ひそひそ声で、おまえの肛門の春を売れ、と言う。

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〈火〉の装飾性について (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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  ――父が面会にこないのはぼくはそれなりに分かりますし、それが父の闘いだと思っています
――森恒夫「吉野雅邦宛書簡」より

  

 パダーンの葬列
 焦げる海
 紅いろに蝕む カーク島

I、沈黙の塔
死の憑く
舌から迸る棘
鳥の黝い群が
岩壁の巣に
褐色の
肉片

貯える
巨石の尖塔から
青い羊が転落する

パオマ酒
……永劫の陶酔
王女ハイアンの十三ヶ月
涸れる 生が涸れ
死の醗酵が並びだす
拇指に薄く冠る百合の
乾いた花弁の
溶ける 匂いが
積み上げられる 河を
渡る 断食者の首から
七二本の糸を縒りあわせた コスティの
結び目が観察していた

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生魂荒らし (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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鐘楼に伴連れ八重の蔭潜み滴る炎
駒型に亡霊の叫喚を繋げ淵仰ぎ眼の斑
殉死者の広大な野と灰まみれの墓地
炎垂れる月宵草木の河
炎垂れる灰紅い首
炎断つ意志のかたわれ
擾乱は睡眠ねむりの夢
炎は死の前奏をふりあてられ
古寺に棲む青蛙のぬめり
桜花散乱桐花砕け血潮にぬめる
ぬめる
 ぬめる
受刑囚の告白は山吹きに放ち
死因は紺碧の砂に被われ
弔歌は永遠に滅びている

眼は透視図の何処にも設けられずか細い戦慄はダッシュで印されている鼻汁は胃壁を潤し冷めた聴力は褪色した街を刺し抜く

 
白い卒塔婆を河に流し架橋は苦楽
白い卒塔婆を赤い百合で包囲し遺骨を舐め
白い頭蓋骨しゃれこうべを伴連れる墓曝き
退職した坊主と官吏を殺害する霊群
隣の生魂いきだまを殺害する生魂
生魂と生魂との生魂荒らし
七日目の半月を合図に
七日目の半月を合図に
生き魂荒らし!
蛸の群を墓所に呼び
蛸妨主の読経に混れ

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孤島 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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突然 浅間山の頂点に大きな日没がくる
なにものかが森をつくり
谷の口をおしひろげ
寒冷な空気をひき裂く
  田村隆一「見えない木」より

 
 
 I
冬枯れ
濡れそぼる眼の窪みに
妖しく 瞠く
――おれは、畢竟、単独のエロス。
鼓膜を枝枝に吊り 月の孔に
葺かれる しとど
垂れる林道のふるい雨
森の水晶体・ひかり苔に拡がる 黄色い
呼気 潮の
撞き声に枯れる雪
――分光器から覗くと、枠寄せる火の繊維が括られ……。
弓なりの意志の一輪ざし
放物線のしぶく 波の

反動する波間にひき裂く 轟音
どこからの
浮游魂の毛一筋――

真向いからの夕餉
仄立つ白魚の活け
のぼり夢の切れ目
暮れかけの灰色の孤島へ
星を渉る樹林を
冠れよ――もう停まらぬのだよ
緋傘に
貼りつむ指の透明 うす髪の
淫らな絡め その

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春の街だよ (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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グラニュの分水嶺
蒼天の吹きぬく縞の
       龍吐水
網膜のひと剥げに
浮きつめる山岨の
    乾きの香
  淘る
淘る 発狂の紐
  はりついた 肉桂樹の町が
鈴なりの大気を 潜め声の
粉末化する 言葉の 夜
   甲高く
甲高く   撃ちおとす
       譫妄症状
   燦然の薄氷
垂木の割れ芯に
アセチレンの絹を脹らめ
夜道の孔ゆきに
水仙花のほそい舌双つ
   幻惑の
幻惑の   低く増幅する
   頭脳の吸い音
    飽枯れよ
飽枯れよ    ドラム・ソロの
        襞移し やにわ
    眼寄りの風化圧
不倒翁のような銅線を
弛め 陽の滴り 水中実験
おお 春の街だよ 楊梅やまももの または 喘息の 探検家の 単調な 島ぐらしよ
起きあがりの浮屠 残酷な処刑
ひとしばりの彩姿      痛み映え
        虹の鵬程をかけて
        の騒擾雲の呼び
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小品 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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 首どもの鎮魂
黒白の穴 とその
夜を一点によって染め返す白鳥の
化けた牝牛の如く 《火素》 が
粉々にすベり込む 死は見事なる醜悪の
枯草たるか 池・湖こそ続々と火だるま
柔和な眼尻こそ粘膜で羽撃きその薄皮に
鮮明な首どものぞくぞくする寒さ 言葉の
交わりをうまい具合に輝く地平線に乾燥す
る黒色の穴がのしかかる 静脈の如き夜の
流浪が悪意をつぎ足していくと背筋から双
頭の嬰児が顔を出す
陰画に映らないその首ども とその
黒白の毛並が 夜を一直線に剥き出しにし得
るか

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真夜 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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 パートAからBに至る
 烏の            熱い羽声
啼く河から          墜ちる空
破れる炎の          厖大な零
 舌どり           曲がる指
昂る星の岐れを        染めあげ
透明な浮標ブイに映す       溶ける軟骨
 淫らな春の         凍りつく瞳
うすい地底に         貼りつく
しなやかな翳を        光茫に
 渡し            夜の格子に
枯れ玉の波          たそがれて
地平線に越える        毒物投与

 百億の首          底なし
 百億の火柱         天果つ

 塞じられる         漆黒の平原
小動物よかばねて         光を吸う
ふかい霧の彼方        鎖・鎖・・
 底びえの          旋律
あつい気流に         点滅の
花の奇怪な命を垂れる     曳舟から
 吊り橋――          疾駆!

 烏の            濃密な風
寂寥な夜翔び         眩暈の河
畑には焦げる砂        隕石割れて
 裂ける眼孔         白濁の時刻
宵星の紫斑が         潜り込め
ふりつけの涸れ渓谷に     我執こめて
 不文律なく         直立する
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輝く夜 (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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私である
私を私有する私は私でない 私を
輝く夜 奇しくも鏡に
塗りこめる
そのとき 私は死体だ
つめたい水を含んだ風が
根に隙間なく生えた 桃色の繊毛を
そよがせる
生きている私の ほんものの死体
食用する根が
命である
根が伸びて
その穴を穿つと
根が 穴である


私ではない
私を私有する私は私である 私を
輝く夜 奇しくも鏡に
塗りこめる
そのとき 私は死体ではない
つめたい水を含んだ風が
胴体に隙間なく生えた 桃色の足を
そよがせる
死んでいる私の ほんものの死体
食用する虫が
霊である
足が伸びて
その根を穿つと
虫が 根である


虫は虫である あるいは
虫から翔びたつものである
私を私有する 私でないものと私は

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襞おとし (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

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  ――大岡信氏に

旋毛風のなか
子午線をわけて
血の道筋が
雪原に現われる
蔽い被さるような
繊い樹木の枝から
行手を視る 雪玉が
吊られてある いや
たてがみのない裸の首

凍りつくようなその河は
ゆるやかな棘の歌とともに
あおあおと青白く
遺跡を経めぐる

朝日のまばゆさに 燦々と
きらめく雪の平原に
血の河の暗黒が
サボテン状に
屹立する
舌もどきに巻き返し
男根の如く蛇族を叩き潰す
暗黒の河
邪悪な星群が
激しい直線を画いて
朝日の裏に消える

と 雪あらしが

防風林に
くくられた美貌の尻
なかばはみでた糞尿が
蜃気楼のような陰唇の
艶やかさをもつに至ると
空に繁殖する
ゆで卵の畑で
禿鷹の頭目が たかく
ひと啼きする
そのとき 涸れた風が
みるみるうちに
雪ともどもに
血の河を吹きぬけて
霧の広野を沈ませる

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註記:(作品成立期) (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

註記:(作品成立期)

生魂荒らし 1971.4.22
季節 1972.6.16
七色分割 1972.11.10
孤島 1973.1.23
春の街だよ 1973.2.12
影の山脈 1973.2.20
真夜 1973.3.22
唄の唄の唄 1973.4.12
うらうらの声 1973.4.25
浣腸遊びエネマ・ゲームのための十干 1973.5.15
輝く夜 1973.6.1
〈火〉の装飾性について 1973.6.13
光の夜 1973.7.2
▼小品▲
 首どもの鎮魂 1973.9.11
 凧糸 1973.9.11
 分割する満月 1973.9.11
 花の話 1973.9.12
 雷鳥 1973.9.12
 庭先から 1973.9.12
 暁の声 1973.9.14
 磁気あらし 1973.9.14
襞おとし 1973.10.25