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詩集「緑字生ズ」表紙

詩集 緑字生ズ 全172篇
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題字=加藤郁乎

純粋思考の次元によれば、神、宇宙、全体性は意味を持たなくなる。
純粋思考は、物質的な死が何の意味も、まして恐れさえ必要としないことを明らかにする。また、精神、観念、神秘、神とそのヒエラルヒーをつねに批判し、否定する立場にあるから、それぞれのどの次元でも何ものにも収斂されず、どの神とも対等かそれ以上の存在である。なぜなら、純粋思考とはより本源的な創造そのものだからだ。

――奇書『魔の満月』から十有余年、緑字という詩篇が生々しい

緑字生ズ*著者紙田彰*発行一九八七年七月三〇日*発行者鈴木一民発行所書肆山田東京都豊島区南池袋二―八―五―三〇一電話〇三-九八八-七四六七*印刷シナノ印刷イナバ巧芸社製本山本製本所*一〇九二-一一三六-三四二四*定価二四〇〇円

緑字生ズ 001 (nerve fiberの先に)

1

nerve fiberの先に
太陽がある 雲がある
空はまた黄金
海には静謐が映る

人と人とに毒を盛る
雨が降り
夜がやって来る

わが手は全季節の果物なり

緑字生ズ 002 (Vの字になって発狂する)

1 2

2

Vの字になって発狂する
碧の湖が小波のために淡い
旅のさの
夕焼空と雁の群
太陽はいま沈む
断頭台の首も――

わが対称形が歩く
秋の風がつらぬく
あてどない旅
ポプラよ、銀杏よ、楓よ、
雑木林を渡る風

いつのまにか海に出ていた
しぶきに見え隠れする巌
また島は動かず
地球が母の姿を現わす
ああ 心が凍る

秋の終わる日
人も自然も枯れてゆく
毒草が地軸の折れ目につぎ込まれる
眠りに包まれ
わがメランコリイの果て

死者もまた同じ
夜汽車よ、海と星よ、
暗い波打ち際に
想い出は寂しい

別れの花を摘む
闇の女の裸体

1 2

緑字生ズ 003 (地平線が破裂する)

3

地平線が破裂する
みはるかすばかりの原野
切れ間なく降る雪
夜はいっかな明けようとしない
大粒の結晶に興をそそられた少年は
首なしの天の奥を仰ぎ見ていた

そのプラスチックの詰め物の中で
雪はとどまり
ひととき降りやんだかに思えた
少年は暗黒の夜をうち眺めている
ありえもしないことだが
粉雪のような星が
全天を蔽った
流れ星すら
千里を
駆る
夢は時間じゃない
幻惑の光は
少年をめざしていた

けれども
空には厚い雲がかぶさり
原野には雪が降り積もり
眠っていたとき思いだした眠りのように
世界が埋められる!
少年の耳はその重みで垂れ下がり
少年の眸は円錐状に尖り
頬からは熱が失われていた
世界は凍っている!
少年の裸が氷のように崩れ落ち
少年の雪が舞うばかりであった

緑字生ズ 004 (死体が雪の中を走っている)

4

死体が雪の中を走っている
満員電車のスパーク
こま切れにされた死体が
糊のように地面に貼りついている

緑字生ズ 005 (函館山、西の浦、宇賀の浦)

5

函館山、西の浦、宇賀の浦
腰まで濡れて告白室を出る
鴎と北極星
櫺子窓に凍りついた
緑の卵

緑字生ズ 006 (女よ、まなざしだけの女よ)

6

女よ、まなざしだけの女よ
妄想のほほえみ
一秒が百年となる
赤い唇が永遠に去る

青い空を閉じる
港では汽笛がなる
雪の精は寂しい
少年は
名前のない少女に恋をする

女よ
尖ったあごと
あどけない口もとの
寂しげな女の
天使の顔は
永久に謎である

緑字生ズ 007 (人が生きているというだけの手)

7

人が生きているというだけの手
悲しみの涙をぬぐうだけの手
あたしの手を握ったのはあなたね
あの日以来 あたしの恋心は永遠よ
この編物を捧げようと かれこれ百年
ほんとにあたしの手ってのろま!
愛を知り初めたとき
もう濡れていたのよ
だってあの日は雨
傘を持つ手に滴のかかる

手を空に向けて
光を捜るが
どうせぼくは不始末の子
太陽を握りつぶす
そうすると宇宙は幻――

緑字生ズ 008 (悩みに敢然と立ち向かう苦い魂)

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悩みに敢然と立ち向かう苦い魂
ただ激しく生きるこの苦さ

ミューズ
アフロディテ
また人魚たち
ぼくは龍にもなろう
ぼくはあぶくにもなろう
おお 優雅なる破滅

緑字生ズ 009 (夜の影)

9

夜の影
書物の病よ
夏がかすかに開いている
あつい欲望につらぬかれている

その頁の間
夜の光と狎れ親しんだ
夏がかすかにふるえている
その色は色を失いしもの

はかない夢寐
はかない悲哀
魚から進化した魚の意識
朝はただ朝である

緑字生ズ 010 (足をとらえる氷)

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足をとらえる氷
道路はゴム棒のようにはねている
真珠の中の声
恋唄にこたえて波が割れる
紙のめくれる音
すさまじい食欲
波のような肉体
つまり青い骸骨
口笛を吹いて
詩を書くのをやめる

緑の光の下で
マラソンランナーが坂を上がると
肩口にハンガリアン・ラプソディーが流れ
早朝の距離はちぢまらない

緑字生ズ 011 (しぐれる墓の)

11

しぐれる墓のどくろのじじい
しぐれる墓のどくろの踊り
やみの話
不思議なくらやみの話
いずれも やみのさよなら

緑字生ズ 012 (歯ぎしりする)

12

歯ぎしりする
棘が深く刺さっている
針のない時計
恐ろしいものが靴の中に潜んでいる

ああ 悪魔
夜の園をみたす
憎しみと至上の愛
沈黙と昂奮
バラの花束が恩寵となる

緑字生ズ 013 (深き御山の彼方)

13

深き御山の彼方
精霊どもの踊りの輪に
靄ともつかぬ御身の姿

さまよい歩き訪ぬれば
いずくに棲むか御身の族
睡蓮の湖はたまた森の奥

御身の声にいざなわれ
涙も切なく思われて
黄泉の水辺に悪魔城

吾は御身の囚われ人
天使も愛に堕落する
血と殺戮の嵐をわけて
魔のものにならんとぞ行く
死の居城

緑字生ズ 014 (locustが跳躍する)

14

locustが跳躍する
栄光の灰が降る
賭博場の隅でぎらぎら光る幸運
深まりにつづく道
運河に沿って大陸を拾てる

待つこと
待機するというひと眠り
洛陽に帰れ 洛陽に帰れ
春の日差しの
悲しい憫笑

わたしの溪間においでなさい
夏が近づくと
わたしの汗が
とても切ないのです

黄河ホアン・ホー 燃え上がる天と地

緑字生ズ 015 (ぼくの脚は)

15

ぼくの脚は一つしかない
ぼくの眼は一つしかない
けれども
夜が暗いからではない

妹の死の床に
黄色い体液が残される

緑字生ズ 016 (真夜中の夏)

16

真夜中の夏
紺碧の空にトランペット
犬族の遠吠えを聴く
女の目の中にある雨

潮の流れが冷たい
砂浜は濡れているが
女の寝床はさらに悲しい

ニセアカシアの梢がゆらぐと
夏は去った
雨雲が蝟集して
小窓の隅に
白い花びらが落つ

宿六よ、また旅へ

緑字生ズ 017 (涙するグアナコ)

17

涙するグアナコ
スケートに乗る異国の少女
この世のlimitを
あの世のlimitにすり替える
秘密の会話が
またとぎれる

緑字生ズ 018 (豊かな農園が)

18

豊かな農園が
海をへだてた半島にある
子供らの奇怪な成長が
むくむく黒雲となり
雷雨が、密林が、
古代の神々を弔うという

緑字生ズ 019 (落葉松と遺跡監視人フィラックス

19

落葉松と遺跡監視人フィラックス
赤土には
秋風とともに
ファルスが生える
白い針で刻んだ女の名を
ペンキで塗ると
雨にうたれた一枚の枯葉が
青史に残る

緑字生ズ 020 (銅鑼が鳴る)

20

銅鑼が鳴る

メルポメネー
ああ 秋の深い湖
裸女の像が永遠を見つめる眼で
命を光らせている
また季節風が吹く

甲板に出て
貝殻でできたパイプを拾う
ここも去らねばならぬ
みちのくの旅は終りぬ

田沢湖の畔に
杉の木立が高い
収穫期の田園よ
恋に破れる夢よ
涙を流すものは罪深きものなり

乳頭山が湖面に漂う
無数のボートと
一箇の遊覧船
水底に沈んだ恋人よ哀れなり
雲の切れ切れに
センチメンタルが流れてゆく
カラスも冷えてゆく

青函連絡船は外洋にある
カムチャツカ半島よ、シベリアよ
いま航路は凍っているか

垂直なる託宣板をモーセの金かくしという

緑字生ズ 022 (たちもとおる)

22

たちもとおる
君に会えたのも
月のモノのなせるわざ
そも梅のいらたか
幸せと不幸の返礼を思うだに
凍える心

緑字生ズ 023 (寂しい夕暮とセレナーデ)

23

寂しい夕暮とセレナーデ
枕言葉に冷や死んす
美女の足下に
人も知らない秋の草本
ガラスのかかとが
荒れ野に埋っている

緑字生ズ 024 (クレイオーよ)

24

クレイオーよ
地球儀が欠けている
眼は半月だ
クルティウスの分類は
デルフォイを四つに分つ
人生の短促
乱心御用おまる割り
急行列車が塩の水に漬っている

緑字生ズ 025 (宗教とはジャイロ効果)

25

宗教とはジャイロ効果
午後 稲妻が疾った
みぞれが夜半までつづいた
あたたまるために呑んだ
一杯のウィスキイが
寒さをこごえさせた

茜色の山の端を
行者がひとり登っている
ビアガーデンは閉鎖されたが
ラグビーボールを抱いている
ああ あの豚の膀胱!

緑字生ズ 026 (狂気の)

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狂気のはじめとおわりが永遠だ
いまは塩汗 肌合わせ
はじめとおわりが違っていても
世界は一貫している
何を遺そうと反故
何を遺そうとも沙
神はまだいたぞ
一家に伝わるまがいものの器

緑字生ズ 028 (もろい骨が)

28

もろい骨が
ガラス細工のように
鋭く突き出たかかと
貞操帯と卵
冷たいアスファルトに接吻し
その割れ目から生まれる舌

ツリガネソウが揺れる
鏡には妻の顔
つがいの蛇を
少年の匂いが追いかける

夜まで待てぬ
地平線に女を残して
ペルセウスは出奔した

緑字生ズ 029 (りりりり四季)

29

りりりり四季
愛が愛であるから
(未来の歯茎を破って)
花のみの奇怪ふる

抗生物質が
moraleを破壊したか

緑字生ズ 030 (崩壊辞典と)

30

崩壊辞典とべにしょうが
猫の死骸が吊られている
肥料にもならぬから
小便をする

鏡よ 虹よ
狂おしくあやしかるべき

死は凍る
銀色の粉は
光のかけらなんだわ
そのとき少女は孕んでいた

緑字生ズ 031 (雨上りの夜)

31

雨上りの夜
ハヴァナの吸口を噛み切る
畑の中に
童女の顔が浮かぶ
その幻を環にして吐くと
時間の翳が
みどりになる

緑字生ズ 033 (歩いているときに)

33

歩いているときに、なにげなく後ろを振り向いたことがおありでしょうか。そう、いま感じているのはそのことなのです。つまり、影のような、なにやら得体の知れないものにつきまとわれているような気がして振り返ると、暗黒の底の方から、冷たいまなざしが、肉体はもとより、心の深奥まで貫いてくるような。危惧とか恐れなどとは違って、周囲のあらゆるものが憎悪している、いや、自分の存在自体が己れを憎んでいるというような、死というちっぽけな現象よりも大きな苦悩。そのままずっと歩いていくと、自分の跫音が、いわば十三階段への招きに思われ、それで後ろを見てしまったのです。自分でも何もないように思いましたが、そこにはもう、ありとある憎しみが大きな渦をなして、こちらを睨んでいるのです。けれども死を与えようなどとはせず、こちらにしても死を選択する自由すら奪われているような気がして、彼らはそのような存在を徹底的に嘲笑し、恥辱にまみれさすのです。気にすることはないよ、ただの分裂傾向だといわれるかもしれませんが、断じてそんななまやさしいものではありません。
ところで、崖から突き落とされた夢をご覧になったことはおありでしょうか。

緑字生ズ 034 (無記名の日記の)

34

無記名の日記の中の名前の
あなたの隣に腰かけて
水仙は革命家である
草笛を指の間で鳴らすと
信号が送られてきた
いつか敵に出会ったら
そのときこそ
一緒に死のうと
あなたは
いついつに
秘密に連絡すると告げる

この永続的非和解
強姦へちまめ

緑字生ズ 035 (アルティスへとやって来た)

35

アルティスへとやって来た

心あたたまる辛さ
やりばのない眼
瞼の裏
瞳孔の底
膝の関節が外れる
殴られたときに挫いたのだ

ぱさりと残飯入れに捨てる
時間が詰まっていたので
痛がって声を出すこともない

緑字生ズ 036 フイーレの傍らで)

36
フイーレの傍らで
聖マリア像が砕けている
生と死で区別できないから
呪われている
キッタリア・ダーウニィという茸を拾い
森をさまよったあげく
肉体を地に捧げた

緑字生ズ 037 (?鬼の目おちて)

37

〽鬼の目おちて
 冥土の唄にひえびえと
 ああア お腹の首の声
〽鬼の目ななつ
 星珠ころげひえびえと
 お腹の お腹の 首の声

雪花菜きらず
死滅したきれいな肉

緑字生ズ 038 (ルーキーナよ、聞け)

38

ルーキーナよ、聞け
宇宙の裂目から
巨大な蛆虫が涌き
ドン・キホーテが凱旋した

怠状を示せ
はじめははじめられたときから
ぬかるんでいた と
つまり腐敗である

ために
夕陽はバラの花に包まれ
世紀の眠りに就く
ために
五体に沁みる
死のリズム

緑字生ズ 039 (熔接工の家を訪ねると)

39

熔接工の家を訪ねると
小さな煖炉に
ヴァシリキ式の陶器
燃える水晶時計

雪という字のある娘が死んだので
雪という字のある盲が死んだので
雪という字のある記憶が死んだので

煤けた顔を拭うと
その男は呟いた
たぶん偏執狂であろう
いたわしい別離であったろう

緑字生ズ 040 (己れの造物主が)

40

己れの造物主が己れだと知った人形が
いささかくたびれはて
死体のふりして
不可知論を唱えた

アグライアー
つねに架空の少女だったことを
玩具は嗤う
つねと変わらぬ
機械からくり仕掛で

緑字生ズ 041 (朝を抱きしめるように)

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朝を抱きしめるように
冷えたビールを呑んだ
それからいとまごいをし
ほとぼりのさめぬ夢を思い
沼地を歩いた

ホオジロの屍体
こわれる風景
あるかなきかの暗い捷径
神経が疲れている
薄笑いを泛べ
うたたねできる場所を捜した

朝は家々をつらぬいて
もう睡りこんでいる
心臓が冷たい
意志もまた冷たい

緑字生ズ 042 (夕陽が溪間に)

42

夕陽が溪間にとどまっている
呆れガラスのはばたき
時忘れのなめくじ
樹々の間に生まれた迷路

宇宙を褐色の壷につめこみ
化石の刻を密封する
現代文明のアッテカである

緑字生ズ 043 (くりなされた空)

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くりなされた空
(闇の空模様)
猛禽類が翔ける
その飛跡が尖っている
鋭い暗闇の
エーテルの流れのようでもある
彼らは翼で虹を蔽い
ものみの塔をつっついた

緑字生ズ 044 (弦のような肋骨)

44

弦のような肋骨
ブナの木蔭で
死体の手の甲が重ねられる
下草に埋れて爪が光っていた
デキシーランド・ジャズがほろ苦い
邑人よ 耳をそばだてよ

緑字生ズ 045 (frogよ 跳躍よ)

45

frogよ 跳躍よ
つながりにたたみかけ
まらが抜けたり刺さったり

きちがい薔薇の咲く丘で
あいみたがいの知らんぷり
おまえがclitorisistだから
無限にさいなまれる

ミズアオイよ
安堵して振り返るな
野の花が濡れる
白骨がしぶきを浴びる
道の向こうから来る破戒僧の
犬歯が自然に反している

緑字生ズ 046 (ずいぶん深い思考に……)

46

ずいぶん深い思考に浸っていたときに、急に目の前がぼんやりして視点が定まらなくなった。椅子から立ち上がると、気分を落ち着かせるためにラム酒を啜った。空間が歪むように、思考の中に何か空洞でもできたのだろうか。アルコールが徐々に全身を廻り、指先の神経まで麻痺が達した。精神と肉体がとても楽になっていた。自分自身がどこか別の次元を移動しているかのように爽快だった。しかし、本当はとんでもない悲惨さの中にいた。振り返ると、漆塗りの置時計の黒い振子が斜めに傾いだまま、こそとも動かないのである。

時計の文字盤を蔽うガラスに、少年は異様なものを見た。そこにあるものは、目の両端が吊り上がり、顎が醜く歪み、黒々とした肌は錆びついていた。立ったままの姿勢を永遠に保たせるため、全身の骨格が硬い鋼鉄に変質しているに違いなかった。少年の思考は鈍い軋り音をあげるばかりで、声を出すことも、身ぶりで何かを示すこともできない。ところで少年は、病室の中で狂人は何を考えるのだろうとつねづね考えていた。そう思いながら病人を訪ね歩くのが少年の日課だった。その日も、その日課を果たそうとしていた。けれども、このとき、少年はつねとは違った少年になっていた。狂った人が何を考えているのか知りたくてたまらない。少年は約束の時間を気にした。鍵は誰も開けてくれない。時計は永遠に停まっている。

歴史が破壊されつくすならば
なんという痛快
時を告げる鳥を捜すには
永遠の道草を喰わねばならぬとは
ああ!
頭脳崩壊
あっかんべえ

緑字生ズ 048 (やはり女は……)

48

やはり女は開かれていた
なぜなら 黝んだ乳首が冷たい
ゆで卵を剥きながら
オオカミが啼く

ぶしつけな微笑と
きどった挨拶
胸の双つのふくらみに
黒百合の花を与えよう
Rheumatismusの脚と
夜の声が冷たい

感覚を裂いて
夢をなせ
栄光を鳴らす
骨よ

タロットの背後に
スパイがいる
おとなしそうな顔つきだが
何を考えているかわからない
一枚一枚めくりながら
占おうか ぼくの語の裔

緑字生ズ 049 (ヤマトネコ)

49

ヤマトネコ
光はアルコールの匂いを放つ
言葉つきの怪音波
詩が書けないので
妄想を焚く
爪の伸びた
皺だらけの手

緑字生ズ 050 (海面に、辷り落ちるもの)

50

海面に、辷り落ちるもの
時へ向かう時の皮質
また人骨が出てきた

突堤を駈ける小犬
冬の海が流れている
夜は死に近づいているようでもある

岸壁で砕ける波
愛するふりして肩を抱く
肌がざらざらしていた
涙がにじんできた
沈没した船の上を
ウミネコが飛ぶ

船を待つ旅人
ブランデー漬けの桜桃を
ひとつぶつまんで
彼は酔う

歩痛という言葉
虫歯で死んだ女の
両足に巣くった虫歯の足よ

緑字生ズ 051 (僧院でコーヒーを……)

51

僧院でコーヒーを淹れる
特別な日
ドイツの農村では
花々が枯れる

ホフマンという男が
聖母像を抱いていた
そのかたわらで
太った尼僧が
青い脚を伸ばした

緑字生ズ 052 (死装束の姉を……)

52

死装束の姉をかき抱く少年
銃と毒
筋肉のわななき
彼らは追放されていたのだ

狼たち
月の輪熊
鉛と砒素

緑字生ズ 053 (ひとりひとよのふかなさけ)

53

ひとりひとよのふかなさけ
ふたりふたなりうしろがみ
さんにんさんずのかわわたし
よにんよるべもぬしもなく
ごにんごくもんぶらさがる

見よ! 権力のなわきれ

緑字生ズ 054 (眇の売笑帰に……)

54

眇の売笑帰に地図をさしだした
市場の隅に
夜の脂がたまっている
彼は旅に出ていて
出立したその朝には
ここまでの道が消えていた

雨が上がると
色の足りない虹がかかる
そのとき眇の女は
変ね 夜だのに
と眩く

祭壇は白い骨で組まれている
乳呑児に舌はない
天蓋には男根がぶら下がる

痩せたリャマが
夜の街をとぼとぼ歩いている
リャマの背の
眇の女の
あてどなく疾走しようという夢

火焙りだ
火焙りだ
人々は喚きたてた

羊皮紙に刻まれた
地図をしまい
地球は停止していると思う
雨が降りはじめ
眇の売笑婦が背を向ける
その白い影に別れを告げる

緑字生ズ 055 (山間の自然道のわきに)

55

山間の自然道のわきに
朽ちかけた雑木林と
寂れたせせらぎがある
ロートレアモンのことを考えながら
しばらく歩いてゆくと
湯の匂いがしはじめる
山並の向こうに
雲が涌き出していた
どこから来たのか
鉄屑を籠に背負った男と擦れ違う
男は挨拶のかわりに
古い神の名を言った

目の前に
湯煙が立っている
紅梅の小枝を持った
肌の白い女が
裸に見える
そういえば
泣き顔にも思われる
雑沓で見失った
恋人の面影に似ている

蚕は眠っているか
そんな言葉が口をついた

死刑執行官が、手袋を――

緑字生ズ 056 (晋書に)

56

晋書に
大禹観於濁河、而受緑字
唐詩訓解に
洛書、五十六字、皆緑なり
張説の詩に
旧廟青林古、新碑緑字生
と見える

(渇して硯田を墾ずるといえども
 あきらけく、わが産地は洛陽なり)

壜詰の魔の気体、やや粘り気のある
ゼラチン状で、夢の獲物

緑字生ズ 058 (曲がる指……)

58

曲がる指 溶ける軟骨
ランボーのことを考え
味噌汁をすする

霧よ 汝のしめりけが
精神を不快にさせる

死の朝を裂くような風 また
死人にクチナシのいりくんだ地図
青い顔の幽霊が這い出てきた

緑字生ズ 059 石床スティロバテースの蔭で)

59

石床スティロバテースの蔭で
勁くしなう竹を埋める
月が射すと処女
竹の先に白い蛇がからみつく
女たちの喪服にも

あたしたちは襞、みだらな造花

手紙を貰った男は女たちの薄倖を思う
別の男は、ひたすら悲しんだ
(へそつなぎのへそに宛名はない)

女たちは馬
金網をめぐらせた公園で
だく足を使った

緑字生ズ 060 (アンテロースよ)

60

アンテロースよ
敵は味方の顔をしながらも敵
なれば、味方は第一の敵である

少年は箸を置いた
オヤシラズが疼いたのである
横になり、天井の疵から目をそらした

蛾が舞い込む
いまだ音沙汰もなく――
少年はpornographyを開いた

盲目になると盲点はどこに移動するか
少年は娼婦の部屋で考える
部屋を出るにあたり
ヴァレリーの詩集を買おうと決心した

緑字生ズ 062 (?風の吹くまま……)

62

?風の吹くままあら田のくろ
  喰うも喰わぬも雨まかせ
  おいらは日和のでんでん太鼓
  おいらはむくろを野辺送り
舐るように胡瓜を摘む
そのとき手が青いのに気づいた
血が凍っているなと呟く
かすみれのあお天、裂けよ!

緑字生ズ 063 (耳を尖らす馬を……)

63

耳を尖らす馬を買おうと
うすむらさきの橋を渡った
夜の街には白い首の女たち
翌朝、土手に沿って戻ると
木馬がころがっている
こわれものを抱くしぐさで跨ると
永劫を啖うヒキガエルが
流し目千里、
いつのまにかあてもなく疾っていた

緑字生ズ 064 (真珠を噛み砕くと)

64

真珠を噛み砕くと
いま、ぼくは狂う

えいのはだらにしっちゃっちゃ
れるっばなももせりとささっぱるねじほせに
ふぶくれてふへぐり
ふぶざれよ、げっぺんぺえ
ああ、すでに孕まれていたのだから

精神を垂直に立てると
接ぎ目の部分が膿み始める
揺れるvagina
智恵の実のただれ
繊維ことばのことば生地
ともすればありがちななにものもない

真珠を噛み砕くと、いま、ぼくは狂う
魔の手に掴まれたように
びくんと上体ふるわせ
棒状に伸びてぶっ倒れる

緑字生ズ 066 (方舟にわく蛆)

66

方舟にわく蛆
噴水で沐浴するカエル
彼らはポロス石の泡を啖う

もう、夜だから、昼だから、早朝だから
意を決して、ざんぶ、水葬

緑字生ズ 067 (断食者の首、……)

67

断食者の首、鎖の鳴る音、うたたね、しのび笑い、音にならぬ声、地下の泉への道、審判を待つ死たちの時間、……カイラドスの谷

緑字生ズ 069 (街外れで)

69

街外れで
隊商の列を幻想した
ミイラの顔した男たちに
どこまで行くのかと訊ねる
膝まである布をまとった男たちは
黙って通り過ぎた
悪魔がいるから待ちなさいと呼んだが
悪魔がいるから死んじまえという耳鳴り

緑字生ズ 070 (サルボウガイよ)

70

サルボウガイよ
錨は永遠に錆ついている
菫色の小宇宙よ
星々の間が広がっているというのは
光の屈折による誤解だ

緑字生ズ 071 (銀の首輪をつけ)

71

銀の首輪をつけ
腹をふくらませた牝犬のいる公園で
薄い色の体をもてあました市長が
演説をはじめた
そういえば、修道尼が見当たらない

緑字生ズ 072 (愛の現場での……)

72

愛の現場での燦々たるerotic
刺青師は年老いて
姦淫にまたたく股間で
ふるえている
夜ともなれば
女の骸を求めて
気のふれた傴僂がさまよいでる

死のような不協和音――
ヒッサリックの丘では
朝から待っていたように
磔刑の男のふぐりに
涙が落ちる

緑字生ズ 073 (新聞配達人の……)

73

新聞配達人の投函でめざめる
土の家、水の庭
靴底に鍵をしのばせ
びっこをひく
青い木苺を摘んでから
かたまく細流に達した
その中で硬貨が光っている
テッポウユリの咲いていたあたりは
枯野になっているが
虹がかかって見えた
山々は黄変し、花畑には灰
どこかに噴水でもあるのだろうか
山頂の濡れた展望台に辿り着く
ひと滴の宇宙の全貌――
細粒細工グラニュレイションの雨の模様は女に似ている
想像の力が萎れているのだろう
瞼に指をのせて
痛みを除く
雨宿りのための死の翳うすく
白い煙が立っている
凄い形相で
花を摘み取っていった男たちのことが
頭の中によみがえった

緑字生ズ 074 (脂の浮いた甲を……)

74

脂の浮いた甲を包む、赤いエナメルの靴
地下鉄が空を走るなんて!
まつわらぬ糸の女の顔を思いながら
高架の下を歩いていると
通り過ぎる友人に気づいた
楕円形の好きな男である
白い指で笛をあやつる男は
ときおり茨で編んだ冠をして
牛とか羊が好きだとも言った

まじめな聴衆を嚇すように
星の囚人列車! と叫ぶと
男は背を丸めて笛を吹いた
光は硬い、そして二度と出会わない
樹木は灰になり、黒衣の女は自殺する
そう考えて、男は調子っ外れの音を発した
哄笑の中で、膝を屈めて
この思いを人は知らないのだと悟った
男は鰐皮の鞄を抱えて
船員のように走り去った

高架の下で見た横顔には
希望がロープでくくられたような
死の匂いが沁みている
道筋の向うには糸のような月
その下で
夜の森と肉色の街の灯が接している

緑字生ズ 076 (涙をどこかで……)

76

涙をどこかで暖めようと
声を紐にして
音のない窪地を歩く
土の景色は黄ばみ
少年たちの山巓は青い
血管のたぷたぷ、神ながらの花
一六菊を茹でると
湯の中でこわれる太陽
雨の匂いに気づき
田の道から山々を仰げば
樹々は鎖のように枯れ果で
あらためて
死体に死を宣告する

ああ サテュロス
燃える野の……
草の滴が虹のように散って
遠く、あなたに広がる沙漠では
夢の夢が試される

緑字生ズ 077 (マゲイは……)

77

マゲイは棘だけの生き物
棘でつくった針と糸
鋭い味の酒
鋏がカランチョのように
胸から死体を覗き見る

水面のきらめき、土の器、こわれた歌よ
あたし、切ったの
透き通る肌、あつくるしい抱擁
あなたをねぶると
光が内臓を殴打する

青い雲、緑のパイナップル
なんてけだるい驟雨スケール
ここはアジア
ものごとを決めつけるのは罪
でも、悪いことを悪いという修辞学は
退屈じやないわ
たまには安酒だって!

コロインを食んで
崖の上から
青い羊が転落する
あたし、黄色い舌の蛇
何も呪わなくてよ
鉄道はみな銀河経由
鍵束があたしを貫く
寂しい男たち!
燃えるガラス玉!
眠い目をこすりながら心中しても
くるぶしまでの芝居
あなたは、そう、ひとりっきりで

緑字生ズ 078 (鞍型の頂から)

78

鞍型の頂から
星に向かう星
(宇宙の空腹って何のこと? そう訊いて旅立った女よ)
太初、肉はそのあたりに散乱していた
秘密を明かそう
噴火口の前で
マリアとヨハネが抱き合っていた

緑字生ズ 079 (下駄の歯を)

79

下駄の歯を
風の裂目に蹴り上げた

湘南電車で太陽を見よう
少女の黄色い肌を見よう
幼い爪にマニキュア

アブラゼミを狙う捕虫網が届かない
子供の背丈の不足、畸型の時間
かたわらで男がにやついている

スズムシやクツワムシの声を幻聴して
男は夜ごと烟に包まれていた
なぜ部屋に風は入らぬか
もちろん蚊の大群とともに

緑字生ズ 080 (少女が叢で……)

80

少女が叢で強姦されたと知り
旅に出ていた
地むぐりの神話はどこにでもある
ユジプトでは崇高さ
ギリシアではメドウーサの哀愁
キリスト教では悪徳の知恵
けれど、女たちは
どこにあっても岩塩のこびりついた器

ある夜、泥酔して
グテモノ屋に這入りこんだ
酒漬けの肝臓レバーが苦く
旅の疲れにも飽いていた
ファイドリアデスの断崖で
女の赤い舌が突き出されていたのを憶えている
憎悪の持ち数が減り
自分の体が甘くなって
甘い哀しみとなって
地べたに伏していたらしい

緑字生ズ 081 (なにものかに死が……)

81

なにものかに死がさらわれた
スナモグリのように
君は十字路から駈ける
――後を追うJohn C.の亡霊

ゆきだおれのソウルという、魅力的な宿命論
死のうちに放擲された夜もまた
死のままに己れを復元していたのだが
――ところで、堕天使の魂は?

夢の材質と信じて
拷問室の壁に接吻する女
三十六の方向に開いた
光の固形物という考え方もある
――「地獄は天獄の参道」という人の話だ

金髪の美女の首を抱く、黒人の死よ
のたうちまわり、火そのものを構成しているような
壁の中で啼く、三つの死よ
明るい時代、明るい未来のある時代、恋人たちの健康な時代

街娼を求めて
地球の裏側でマルセラに出会う
詩集を売っていた少女が
ふとしたはずみで、夜の、黒い仮面をかぶる

緑字生ズ 082 (闇の凍りつく……)

82

闇の凍りつく動悸に冒され
離婚して、若い女と暮した男
音楽の器械をつくり、子供ができ
すぐに死んだという話が伝わり
もう出会うこともない

朽葉の音は灰色
風さえ冷たく発狂し
キバシやヤマシギの白い影があるばかりさ
空間がねじれているから、そう思う
意味のないことを喋って訣れ
音のない世界のことを考えていた
男の店への通路が曲りくねっている

地下室で原子が死をぶつける
音楽は群がり、塊となり
けものの呻きのように
永遠の夜がつづく
………………

闘いのために祈りを――
男の死の朝に
そのことがふたたび忘れ去られる
昼食に出ています
今日が最後の日です
男は、明るい光のあるうちに
死んでしまったであろう

緑字生ズ 083 (尖った強迫観念)

83

尖った強迫観念
down townのとあるバーで
手を洗う酔払いのニグロ
カウンターの金が減っていくので
氷を噛み砕いた

風の噂に
黒い髪の女が裸で失跡したという
あの、独立家屋にいた女
庭を掘り起こすと
Bakuninの著作と嬰児の小骨

目の覚めたときにする思い違い
今年もまた暑中見舞が来た
platanusの一つの枝に
白い首がぶら下がる

夏が過ぎ、また同じ夏がめぐる
けれども、宿命というよりは永遠
心が破れるというよりは
酔いつぶれていた

――また黙って旅に出ている
人間をさらに進化させて
翅の、謎めいた
ふん、
夜だ

友人たちは
人間の中にはいないとも思えてくる
意志を支えるものは
反世界的な無為と
永遠に加速する死だと
また旅に出て考えている

一文字に収束する烈風
マルセラという名の地の女神よ
神の素因に抱かれて
Los Angelesでは
人々が狂いはじめていた

緑字生ズ 084 (うちよせる波。……)

84

うちよせる波。巌の暗い穴に。人の波。海原でふたたびこわれてうちよせる波。白いしぶきめがけて真紅の鴎が落下する。いや、赤い眼をしたオットセイだ。井戸から汲み上げた水が濁る。ところで、冷たい風はなぜ娼婦たちのように優しいのか。花嫁衣裳にガマガエル、ああ虻の捻りのなつかしさ。コバルト色の水平線が烟る。水晶体のくもり、眼を蔽う血、蒸発する血。雲が染まってゆく。けれど、太陽はこれから五十億年は動きを停める。イエス・キリストよ、汝は溶媒。そういえば、朝が来たという話を聞いたことがない。それなら機は熟している、革命前夜だ。そうだ、朝はない、昼と夜ばかり。フランスパンを齧ると経血の味を思い起こす。まてよ、おれの体を切り刻むのは誰だ。知覚が麻痺しているのか。銀色の髭を生やした医者の科白。眼には楓、口裏には燃えるインク、顔全体が銀色。髭が伸びすぎてそう見えるのだろう。しかし、眼だって口だってなかったぞ。腕だって、もしかすると胴体もないのではないか。診察のとき、おれは銀色の髭に包まれていただけなのだ。そうするとあの医者、髭を剃ろうとして間違って肉体の方を剃り落としてしまったに違いない。あの先生、あわてものだって評判だからな。でも、残された銀色髭にしてみれば、そんな噂をする方がおかしいと思うにきまっている。肉体など剃られるのが当然で、それを馬鹿げたことという連中はよっぽどオポチュニストなのだから。銀色髭先生はおれのことを、後天的逆行性知覚神経不全、つまりもう存在していないようなものだねと診断した。はっきり喋ったのだ。――おぞましい、どこに言葉を発する器官があるんだ。機能障害、いや機能喪失はやっこさんの方だぜ。ん、いま気づいたのだが、おれのあの部分がなくなっている。すっぽり切られている。あっ、痛っ、おれの足を喰っているのは誰だ。いや、犯人は時間そのものを啖っている。おれなぞ目じやないのだ。おれの口は――、あ! おれの口が勝手に動いている。何だ、何を喰っているんだ。味覚も触覚もない、ただ胃が重く、さりながらおれの体が軽くなっている……。シュプレーガデス、鳩は肛門の共犯者、銀のスプーンに指の脂がつく。洞窟のたったひとつの出入口が光線の加減でいっそう蒼く見えた。

緑字生ズ 086 (アポロポスの鋏のままに)

86

アポロポスの鋏のままに
男は旅に出るだろう
アラウカニ帝国の末裔に出会うだろう
甲虫の絵を描きつづけるだろう
喘息の、探検家よ

緑字生ズ 087 (運河の見える駅で……)

87

運河の見える駅で下車する
街には針が流れている
その家を訪ねると
青い柿の実の首 グランドピアノ
鍵盤上で脚を広げ、ウインクする女
肩が、ガラス細工のように透き通った

乳の河 怪物の森
イモムシのことを考え
黒いパイプを掌に包むと
生涯は煙
いたるところの駅に
星渉りの似顔絵が

緑字生ズ 088 (ポーモーナ、……)

88

ポーモーナ、果実の奴隷
幼きもの美しきものの肉市場

透明な白樺 ニンジン色の舌
雪よ、貝類の毒

少女の媚態
ぶらぶら頭蓋骨、炎のような喉

雨後、寒冷地ではミソサザイが鳴く

緑字生ズ 089 (にわたずみ)

89

にわたずみ
反射鏡の向こうに
さざらめの気圏
天円地方、チューリップが立つ
磁気あらし
蒼白な溜息
紫外線と、流れゆくものの細菌

緑字生ズ 090 (首には歯型、……)

90

首には歯型、象牙の肌
天門を照らす眸、掌は産卵期の貝
はまふゆくくたりよ、みよむたり
つつめしおんぱりおん、だだびじおんたるぺお
息吹けば、冬

緑字生ズ 091 (三百六十五人のムネーモジュネー)

91

三百六十五人のムネーモジュネー
穴居人は知らない
少女をかどわかす暗黒を
歳月の円周率を
白夜はつづき
冬、地下深く、百足のように

緑字生ズ 092 (夢精の夢のejecta)

92

夢精の夢のejecta
野ごしらえの花、花びら
白い牡鹿、スリッパ
鍾乳石
野ネズミ
まっさおな首
急に天秤にかかるもの

緑字生ズ 093 (元気とともに生まれる)

93

元気とともに生まれる
奇妙な野菜のジュース
雨降りの日、大陸では
赤と黒の斑点を吹いて
人死にがあったという

九元真母のうち巨霊という神

とのぐもる空を裂く
運命の使者つかわしめとは
カラスなのかトキなのか

緑字生ズ 094 (安楽椅子と加速度……)

94

安楽椅子と加速度 胸のうち
アルファにmarijuanaベーだよガマン
想いは棟上、真夜中の十字架から石つぶて
ふぐりびととWomen’s Lib
塩の話なんててんでしおらしいので
アホウドリが盲目になる

緑字生ズ 095 (神仏不合……)

95

神仏不合 粘膜のような魔性
時間とににω子の聖体拝受
ω子といえば θ子と同衾する
白子のミッチと同じ 幽霊的存在
ひきしろう十三番目の死体にパンツ

緑字生ズ 096 (クジャク!……)

96

クジャク! という声に振り返ると 太陽が破裂しそうな勢いで落ちている 女はそのとき眼を伏せしゃがみこんでしまう うしろから近寄ると たしかにクジャクが生まれていた

あるとき 白い雲が女をのせたまま落っこちた のぞきこむと 雲のような毛が生えていた

翌日 旅に出ると 大女が通せんぼするので切符を見せた 女の神は鋏を入れて汽車に乗り込んでしまった

空が割れている! と叫ぶと 女が見上げたので遠慮なくうしろからつっこんでやった

緑字生ズ 097 (単つの瓦礫からなる島の)

97

単つの瓦礫からなる島の
ヒカリゴケ、 アナアオナ
ふたりで海を渡る
ひとりで舟を漕ぐ
指の位置
鍵穴と死
骨盤の内側が急所だ

しとと裂けるもの
島の石 人間の舌ざわり
薄い毛の感性、道端の花
knobの垂飾りペンダント
裸の女が飛び出す

想像力の分裂症状
死への叛逆児、スケコマシ
コカ・コーラの壜から
滅蝋法でできた夜が……

緑字生ズ 098 (蝉ゃ腹でぇ鳴くのだが、……)

98

蝉ゃ腹でぇ鳴くのだが、敵娼の骨を抜き取り賽の目切りに百三十六、それをテーブルに配列すると、柱時計の長針がすさまじい廻転、急遽大音声を発してとびかかる 巨大な乳房の年増女、ひりひりするcayenne pepper

緑字生ズ 099 (ひきかたむうすい骨盤)

99

ひきかたむうすい骨盤
壁をへだてて
女の首筋が燃える
――忘れたのよ、大切なこと

糸切り歯の間から
燻製の鮭がのぞく
台所に首飾り
それから 庖丁
――男がfeminineだから

凍りついた料理
――鍵は、なくしちゃったのよオ

緑字生ズ 102 (死刑執行人ゲーよ、……)

102

死刑執行人ゲーよ、おれは求愛した
死者の街、師走の、革命のべル
おれは火種をなくし
裂けた心臓を取り出した

緑字生ズ 106 (気の遠くなる夜と……)

106

気の遠くなる夜とbandoneon
いのちの狂おしさ、むしばまれた夢
ああ、ことばは眠る
ことばの輪がいっそうおしくくむ

緑字生ズ 108 (世の中の寝静まるのを待ち)

108

世の中の寝静まるのを待ち
声高らかに、奈落の恋人を呼び出そう
(いつしかほほえまんわれをおもえ こはながるる じごくはまちをおおいたり)
腰が、魔の手に掴まれたように、砕かれる

緑字生ズ 110 匹如身するすみの間男の死に似せて)

110

匹如身するすみの間男の死に似せて
白い手袋を叩きつける
尊属を殺せ!
銃器を装備して
墜ち空、曲がれ!
眠れよ太古、やんぬるかな

緑字生ズ 111 (?蔭に日向に声かけて)

111

?蔭に日向に声かけて
 叩き起こして死するなり
 おれはおれの死を叩き売り

眼をあら
死水で雪ぎ、ひたすら黙す
誰も見ていないから呑気なのだ

ホトドコロ
魂のもつ腐臭、虫の涌いた布
風のままの生涯 その音色

ああ おれの手は全季節の果物だ
剥がれた肉はひからびて
男とも女ともつかぬ白骨

緑字生ズ 112 (庭掃除。……)

112

庭掃除。水の流れる暗黒。ふたたび、夢は時間じゃない。冷蔵庫、牛乳の中で猫を飼う。ミョウミョウチョウ、saffraan、オニユリ、gladiolus、つつじ、バラ、鏡草……土をいらう、じょろの水、葉尖からぽたりと落ちる雫かな。人生のempty。肥料にせんと小便をひっかけるほど愛す。

ゆらゆらと影の燃ゆ。睡魔の跫音……。開放されたガス栓。ストーブの焔。火災報知機アラーム。ひきしぼる喉、ただれた肌、血まみれの、青い瞳、spectrum、雪の瞬間の結晶。やさしい爆発。せつない、せつない、gardenの、感傷的な、衝撃。

火をさます鏡、永遠の持続、他人の世界。タレイアの器、地獄思想者よ。白骨化したその貌、信頼と対話、夢の現実。闇をうるおすgarden。……無意味と倣岸さの、がらくた。

自殺実験。闇の中でしかあらわれぬgarden。握りの象牙、ナマコ。陶酔。共に死のうという。優雅。不潔さ。観念的フレーズ。生活という死の行為、死という生活の行為。(闇やいうたかて、けったくそわる人間の吹き溜りやろ)という越境。

tape recorder! 感電。全世界の金属の監視。

真紅の花びらのはだら。ポリバケツの液体上の、浮游性の微粒のゴミ……。黒猫の溺死。

(滅々たる嵐のように君よあれ 苔類こけむす地下に我の待つ)錆びた庖丁。魚の内臓わた。手首。利き腕の右。鏡の中の、他人の左手。唯一の武器。金属のネットワーク。電話が鳴らぬか。けれど、gardenはほど近き……。

緑字生ズ 113 (cinnamonの喉ぼとけ……)

113

cinnamonの喉ぼとけ―草色の貌―哀しみの恋―物質の肉体的特性―撃鉄―ジョーヴよ!―狂おし―〔○慾部位〕―血族の血―鬼姑神―赤子の首と生えかけの歯

五色の石と天使*天涯*黄金の鞭*羊を奉納する*皿*召使い

グルニアの蛸壷×透明球=〔神x部位〕

○三つの軸○等質の○美少女の裸体が埋められる○薔薇の匂い○恋○白濁○存在の白い根○モーリュー○真紅の唇○閉じよ○回転球○褐色の穴○

いっそ、塞いでしまえ!

plastic arts+移植+ゼラチン+黄金の臓器=〔ぼろ〕=宇宙の核+神の臓器+ひび割れる回転体+……

緑字生ズ 114 (方)

114





鏡の渓谷〔prismの内容物〕鏡の平原

の山腹 乱反射 融合反応
の頂の 悩み
の点 E=…… あらゆる相似形
のどこもかしこも
の集落 愛による処刑
第一断面 反〈光〉
第二断面 反〔反〈光〉〕
  ? 
  ? 
  ? 
 物質を貫く

の世界

緑字生ズ 115 (永遠に鳴りつづく楽器)

115

永遠に鳴りつづく楽器
忘れかけた革命
白い腕がいちだんと強く、腰を抱く
蒸気のベッドで
ふたりの少女が愛するものは
内臓なり

緑字生ズ 116 (ありふれた恋には……)

116

ありふれた恋にはせじと
かわいた舌で口ずさむ
流るるは
灰色の脚のさすらいびと
空無なことば

緑字生ズ 117 (老ゆるものの醜い肉体、……)

117

老ゆるものの醜い肉体、ふるき世界
痩せほそるいのち、はかないいのち
それゆえに
老ゆるもののことごとくを許さざるべし

緑字生ズ 118 (老ゆるものはその生涯で、……)

118

老ゆるものはその生涯で、あらゆるものを畏れていたか、畏れの対象になど出遇ったことがない 皺のひとつひとつが奇妙に交錯し、くろずんだ歯茎と静かな刻 崩れゆくものの肉体は蘇ることなく、ふたたび……

緑字生ズ 119 (汽水よ……)

119

汽水よ 赤褐色の海藻がからまる 青く光る小魚の群が岩場で餌を 泡立つ波間をすりぬけて 銀色の月のささやき 水底に沈んだ幾憶の骨のありか

緑字生ズ 120 (獣たちよ、……)

120

獣たちよ、海をみたすものよ、崖の切尖
湖から森へ 街を渡り さらに山脈を越え、しぶく海、遠き祖先の、哀号!

緑字生ズ 121 (紫色の肌に……)

121

紫色の肌に白い斑点をもつ貝が、夕焼けに染まった海の中を流れていく 渦がそれら小さな生命を織り込んで、深い深い地球の底におりていく

緑字生ズ 122 (海猫の飛び交う崖よ……)

122

海猫の飛び交う崖よ 涸いた血の色をした岩壁よ 狼の吠える崖 幼い人魚の集う崖 やさしい潮の匂いでみたされる岩肌 漁師たちの出発を見守る絶壁 おお、それらの高みが、刻に啖われる幾億の生命を、なんと無表情に見ていたことか

緑字生ズ 124 (灰色の砂を眺めていた少女が、……)

124

灰色の砂を眺めていた少女が、老人の話に眉をひそめる 蟹が砂を噛むのはかたい甲羅を破れぬという絶望を持っているからだ 少女は美しい背をひるがえす 思い出を哀しそうに、あるいは楽しそうに語る人種に呪いあれ

緑字生ズ 125 (獅子のように……)

125

獅子のように咆哮を放ちながら泣いている少年 薄暗い地下道を行き交う人々が、少年を避けて小走りに通り抜けていく 長髪をふり乱し、顔中を涙で濡らしながら、少年は堰止められぬ嗚咽とともに叫んでいた 「いのちが血まみれになっているんだ」 小脇に抱えていた紙きれを天井高く放り投げて、少年は排水口のように嫌な匂いのする地下道を駈け出した

緑字生ズ 126 (一九六九年十一月……)

126

一九六九年十一月 冷たい部屋の眠り
さめざめと泣いていた少女は
女に変身すると
すぐに心を整理した

緑字生ズ 127 (少年よ、君は)

127

少年よ、君は
部屋の隅で小さくなって暮らす
蝋燭のゆらめきが、君の夜をおびやかす

肉体は訓練を重ね
素粒子ほどに収縮し
地球ほどに膨張しなければならない
そのためには
まず肉体だけで空をぶこと

少年よ、君は
蒼白な寒さの中で
ふと 宇宙が起きているのだと考える

緑字生ズ 128 (季節はギロチン)

128

季節はギロチン
精神が粉々に飛ぶ
ラッキョウのように
死に接吻し
青い静脈、熱い息
洞窟の奥でうずくまるもの
銀色の砂
時代ののっぺらぼう

緑字生ズ 130 (冬になると人死にが出る。……)

130

冬になると人死にが出る。そんなことを思い出していた。「やっぱり不謹慎だよな」眩いてみてげっそりした。擦り寄ってくる女の形は曖昧だ。白粉と香水の入り混った匂いが鼻につく。「君はずいぶん厚化粧なんだね」言ってから、酷いことを言うと思っている。ふてくされたふりをする女の顔に卑屈な色が泛びかけたが、すぐに表情の底に沈み込み、蔽い隠される。「ふふ、嫌な人ね。その手になんか乗らないわ」

緑字生ズ 132 (旅館の長い廊下。……)

132

旅館の長い廊下。途中、壁の漆喰を噛みしめ、突き当たりの仕事場に。竈の燈影だけが妖しく揺れ、何のための部屋か定かではない。片隅に岩塩のこびりついた三足の陶器。室内で作業する褐色の肌の男たちは、その彩釉技術に目もくれぬ。古い日記、猟奇の眼、革表紙の書物、耽溺。濡れた紐でくくられた輪、書物の角に貼られた刃物、毒。注意を与えても苦しそうに首を振るばかり。根太をしっかり握られているに違いない。ようやく女主人が現われ、宿帖に記名を迫る。

緑字生ズ 133 (夜を記憶しない日々。……)

133

夜を記憶しない日々。煙と湿度。鳥に変身する。強い翼で都市に嵐を。塩、ガスの噴出音。青虫。灰に埋まる裸体。枝折戸が開閉し、数億の首なしの餓鬼を生む。

緑字生ズ 134 (鉛の焦げる古都。……)

134

鉛の焦げる古都。匂い。肥大した河。褐色の指、腕、緑の胴体が。長雨の中で燃える橋。烟る流砂。爪、髪、灰色の骨を埋める。沈む。とじめ。冬が閉じる。全季節が塞がり、自然が消滅し、宇宙が青黒い火球になって燃えつきても、失われぬもの。市場。積み上げられた、赤ん坊の死体。甘い匂い。裸の女の眠り。

緑字生ズ 135 (ガラス張りの部屋で。……)

135

ガラス張りの部屋で。世界の空気と疲労、冷酷と美貌と。躯にそそがれる時間、蘇ることのない。繋留、未来。第一突堤から、第八突堤、伸びる、伸びる、赤い影、山脈、海へ。幾百年、幾千年の思い。失われたもの。かかわらぬもの。

緑字生ズ 136 (parrotの一瞬、……)

136

parrotの一瞬、鉄塔が切り崩され、地面に叩きつけられ、地球の内部をあば点刻彫版スティフル・エングレーヴィング。鳥類の水平飛行、河と海を埋める魚影、水面に突き出た棘、楕円形の口腔。光、暗闇をうねる波、そのつながりの連峰、雑居地。街路を盗掘する男の肩の暗いラピス・ネリ。全気候と気流の愛を受容し、厚い雲に鎖された空。おお、人類の苛酷な銃撃はつづく。しぶき、巻き立つ火焔、消さるる炎。湿原のムカデ、触覚から触覚、そして環。とどまる生、流れゆく死、猫の舌と尻尾、熱い弔歌。注視するものの存在の貪り。風にはじかれる鈴。静止の中の速度。

緑字生ズ 137 (白雨あり。……)

137

白雨あり。踏切警報。異常な緊縮。秘匿すべきことば。青い死の光を搗く金属。しめじめと歪ませるもの。幻の輪郭。内臓脳。緩慢なる膨張。白い星。点滅するバラ。さらなる収縮。愁いと投企。戸籍簿。連鎖すべきことの拒絶。触れうるもののあやうさ、ふるえ。沈み込む輪郭。伝達される暗号。淵。襞。游泳。軟体動物のくねり。しだいに粘りつき、薄い膜となり、浸透圧によってくり返されるsoliloquy。

緑字生ズ 138 (ギボシムシと火縄銃アルクビューズ!)

138

ギボシムシと火縄銃アルクビューズ
潮の核心ほとを貫通する
からくれないに燦く卵
生命の首飾り

緑字生ズ 140 (Jacobの杖、……)

140

Jacobの杖、パレステイラよ
下着に醤油がこぼれている
またしても光の彼岸にとじられる石炭袋
からくりの回る向こうのからくり
メビウス環の変成男子!

鱗翅目の系譜を追って
地球の時間を
あたためてみる、ゆるめてみる
からくりの中で透明になるもの
腐蝕した太陽、凍りつくかげろう、うすい息

ぐれりぐれり
地球の創世に沿って
からくりが回る
べつべつの道筋とべつべつの坑道
出会いと別れに違いはない
色のつかない光が粉と化して
裂けて堰を切る

緑字生ズ 141 (光は敵だ!)

141

光は敵だ!
そらいろの鳶が翔ける
虹は見えるものではない
ヒッポドロモスから橋を渡って
次の機会を狙っている
雨も降りやみ、微風とてとどこおり
太陽だけが饒舌なり
ああ、音もなく崩れ落ちるものら

緑字生ズ 142 (麝香とビュラン)

142

麝香とビュラン
しめた!
声高にひと声吼えてorang-utan
下腹を割る憎しみ
涸びた茎は血を好むのだそうだ

緑字生ズ 143 (もはや腰などは臀部、……)

143

もはや腰などは臀部、音だけが立つ

倒立する肉体
苦難にあふれる路上、世界のくびれ

ゲニウスよ
祈りだけが分かつもの
人々の白骨 一千体の人形
死ぬと決めたときから生きつづけるもの

梵鐘、瓦、橋、水の硝子、木戸、苔、石、黄体ホルモン、名のみの……

緑字生ズ 144 (疲労と睡り、……)

144

疲労と睡り、絶望と苛立ち。みもだえすることとふるえあがることと泣き立つこと。青年期の恋愛、裏切り。未明の、身を切る哀切。白昼の、凄じい収奪。闇の中での変化、ひびわれるような肉体のたかまり。告別と復活。自らの尾を咬む混沌よ。寛容さと死のゆらめき。聖なるものの鞍。ただ冗長な波のきれぎれ。

緑字生ズ 145 (はだけがみ。)

145

はだけがみ。
うららかにむれつく樹脂の匂い。
裸のまま遠ざける。女はうがたれたまま足首をひねる。なめくじを越えた全身舌。
わたしから脱け出した悪魔よ。自在で、硬直した、曲折のセヴィーニエ。それぞれはそれぞれだ。
流木よ、還らねばならぬうつせみ、その笑い。行為の思考。裏打ちされているもの、囚われのシャトレーヌ。下向意識の収斂される場というがまがえるが不鮮明にされ、空間的な拡がりの仄めかし。
ああ、乖れる肉体のアカシア未生。
断続する精神が形成する尾根。動態としての連繋作用と、それを織りなさざるをえない不連続の連続の接点を尖らす、時の底に流れる深さ。逆しまに裏づけるもの。等価でも等質でもなく、empiricismを予知によって逆証するでもなく、女のかかとの構造がことばを越える。
銀の鎖が透明な硬さを保ちえたのは、子宮願望の向こうにあやういballoonを予感したから。自動小銃からばらまかれたennuiは抵抗だが、抵抗は梅雨空とかかわらない。そしていま、帆に満つ風の声。
トコウマシテッケザアドナゴンベコジタレフリアノカッコタレフリアトマカナタレフリアトウソシタレフリアトタカキイタレフリア。
そしりはしり、それが航海のはじまり!

緑字生ズ 146 (霧の方のエオスよ)

146

霧の方のエオスよ
幻の頭蓋骨を造形せよ
その暁の蟻酸、若い肺を抉る……
星合の祭は移り
朝けぶりにゆらぐ 汚れた横顔
焦げつき、定まりのない えきえぼし

緑字生ズ 147 (ねぶるるものらのねむり)

147

ねぶるるものらのねむり
はだかのOrchis
しりだちからからみねへ
ねむりのなかからすいぬめる
からみねからしりうちて
たちあがるもの、もえあがるもの

うすみどりの朝が立ち
死産の卵をしゃぶる
からみねとしもとだち
マスチックをほごして裂けるもの

緑字生ズ 148 (迷い猫の後をつけて、……)

148

迷い猫の後をつけて、眼は見ず知らず
ガラスの破片の浮かぶ都市や
天袋を覗くと小鬼ゴブリンのミイラだったり

けたたましい哄笑にも、死体は立たぬ
(童顔の、なんてひがみっぼい苛酷!)
虫のように息をころし、そのままトパーズとなる

跣足、flute、白い唇、水晶の朝、ああ
宝石の中のPandora’s box
輪廻の智恵の環を
エメラルドの海に沈め
未来と未来の未来を甦らせる玉手箱

緑字生ズ 149 (アジサイに包まれて)

149

アジサイに包まれて
涸れはてたものを密葬する夜
 月影の女の純白
ともに終わろうとするかげろうの血
紫色の光沢をもつ金属の断面
耳から外れたジランドール
時間がかなきり声をあげる
蛾をつぶした指を見つつ
命を垂らす季節のあるなし

雨季のあとの訪れ
君は睡ったまま
支配者の静かな貌を見る
下腹の胎児はいずこ
闇の転回力!

緑字生ズ 150 (倒立した円錐図形)

150

倒立した円錐図形
シャクナグの可憐な綱渡り
秋篠寺の黒い石が汗をかいているので
地獄の軸を昇って
雷除土器が
眼の穴から盗まれるに違いない
察するところ
はるけきオリンピアでは
パンクラティオンの凝灰岩が
ゆるく波打つとともに
徐々に液体化して
白昼、群衆をひきずり込む

緑字生ズ 151 (寝息をまねて脈をとる)

151

寝息をまねて脈をとる
顔のない顔
その皺の中を躯が流れる
交わりではなく
弔いでもなく
呪いと愛ですらない
風も耳も鼻も、ロさえもなく
六本の足、四枚の翼、
黄色い布袋の姿が
赤い炎になる
狼でなく
牛でもなく
ヴィニエットの中に棲む

思いつめないで!
口笛吹いて
いま扉を開くと
眼に映る眼の毒、ごろごろの魂、結ぼれざる涙
ああ、無意味なることの子供たち

緑字生ズ 152 (猫の耳と称ばれる)

152

猫の耳と称ばれる
ヒマラヤ杉の下蔭から
玄関プロピレイアに入ると
股間の化粧を終えた少女が
単眼巨人との死闘を演じていた

尖った苦みが走ったので
虫の涌いた布で口を拭うと
折れた蟹の赤い爪
さしだされた花びらを齧る

光る甲、かかとまでの汗
横恋慕ではないが
そむけられた横顔、そのときだけの義眼
少女の付け根の血に、思わず息を

じりじりと燃えつきる踊り
じりじりと燃えつきる踊り
油を絞る畸型の時間……

緑字生ズ 153 (人台の前で……)

153

人台の前で尾を置き忘れた両棲類 梟のように頬をふくらませた男の死亡通知 女の躯をつたう男の汗が闇に光る ひそひそ話と私服のメモ 奴と義兄弟のつもりになるな 遺されたこもごもを理解するな ふん、ホウセンカの種め 行先を告げず、にたにた笑う運転手など糞啖え 紙幣を奪取し細かく破り捨てると、紙吹雪がひとつひとつ義眼となって首の直前で剃刀となる おお、ぴかりと閉じた子供時代、雪景色にさよならだ 男は梅雨の到来に痩せほそる

緑字生ズ 154 舷梯ギャングウェイを跳び降り、……)

154

舷梯ギャングウェイを跳び降り、夏の空は眩しい
マドロス帽をあみだにかぶり
村外れの崩れた壁を背に
女を抱き寄せる
日盛りと杜松の匂い
一口放り込んでから
広い、埃っぽい道を歩いてゆくと
深い酩酊にとらわれる
小色のひとつふたつなどと口ずさみ
糸杉のある墓地のあたりで
片目をおさえる飛燕草
雨水のはけ口で足をとられた
日曜だけの恋人の、青い肩
毛の薄いあらゆる感性なんてまっぴらと
意味ありげな含み笑い
かどわかされたうわばみと
粘液のような生物の男根
ゆるやかな起伏がつづき
オリーブと葡萄の畑が
永遠をめがけて広がる

この島から盗むべきものは
谷でへだてられた向こうの丘の
収穫者の杯という、凍る石

緑字生ズ 157 (その壁画は)

緑字生ズ 157 (その壁画は)

157

その壁画は
アカンサスの葉飾りのある
alumi-sashで囲まれているのだが
室内で交接する若者の多くは
見つめられていることに気づかない
肉体が外され
何かの拍子で陰毛に火がつくと
めらめら火焔となって
傍らの、緑のカーテンが灰になる
それこそ眼の間の出来事なので
「金属せよ! フリージアの潤め」
という題の自然主義的景色が
くにゃりと瓦灯窓から顔を出す

緑字生ズ 158 (星からの悪い知らせだ)

158

星からの悪い知らせだ
ねえ、 マスター!
太陽は衰弱をきわめた

the Capitalを見はるかす
相模の原の小倉山
真紅の菊のうたかたの

緑字生ズ 159 そそげ、隕石)

159

そそげ、隕石
撥ねよ、両棘矛パルチザン
不軌をはかるべし
燃える獄舎と恋のまなざし
溶けるplatinaの、血の蒸気

緑字生ズ 160 (旺盛ナルメシア)

160

旺盛ナルメシア
反抗期ノヒエラルヒー
勝利ヲ目前ニシタアルコーリック
神格化サレヨウトイウスピロへータパリダ
アバリジニートアボーショニスト
死亡スルインターディクト

緑字生ズ 161 (ラレースよ)

161

ラレースよ
黴毒の源、方舟にわく蛆よ
乱気流の中を移動するアジビラが
火の鳥の首になり
ようやく首都を呪縛する
blow up the Diet!
その尖った亀裂、糞袋
いま空は、雷の如く……

緑字生ズ 162 (一億の首を吊る……)

162

一億の首を吊る目のさめるような夢 未来という濃淡にさらされた銀河が、音のない世界にもたれかかる死、投げだす死 地平線の破裂、ひろがる烟霧、静脈の夕焼、墜ちる寸前の火球 沸き立つものを見よ 物質という時間の塊を破壊する渦、速度を食べる渦 坑道のとどろきを聴け 海賊船と錨、波止場の女、cruz! あまたの故郷の守護神たち! 大洪水や地割れや噴火のもろもろを一挙に呑み込む、無色透明な渦、asura!
ああ、言葉のかすれ、裏返り!

緑字生ズ 163 (アルメニア産の粘土で……)

163

アルメニア産の粘土でできた男が
(窃かに夜を見て)
かぎろう月のあおく匂うぞ、と呟く

疎水をさかのぼると
ムラサキカタバミの咲くあたりに
精神病理がつっ立っている
頽れた肉体はよみがえることもなく
白蝋化した鬼が酒に乱るる心なり

かわいた眼窩、脂の浮いた顔の
その鬼がケタケタ笑うと
タルタロスの軸を昇ってきたからと唆す
ふむふむ、脳髄の尺度には通行証が必要だ
それにしても
風のままの生涯とは何という音色!
(たまもなす炎のひと垂れ 残酷な宇宙)

緑字生ズ 164 (サーカスの来た朝)

164

サーカスの来た朝
鏡の中によりかかるものら
ポゾランにまみれた火の鳥のあくび
泥冠りの青天の午後

美少女を拐う道化師の出現で
少年たちは続々と親になる
ミスター・カガミは
回顧録に犠牲者の名を加えると
オレンジを皮ごと齧って
唇から白い歯を外す
ああ、呼吸のたびにふれる空気の色

緑字生ズ 165 (忘れさられた砂場の……)

165

忘れさられた砂場のトンネルが
半分崩れたまま
風にさらされている

街の生命がいつになく淋しいが
ぐり石を見ぬだけもっけの幸い
地の底の神々が吼える
ゆらめく数珠ぶるえ

Ciudad de México 三つの歴史
ああ、命に刻まれる往来
哀惜の腕時計!

緑字生ズ 166 (銀色の頭髪……)

166

銀色の頭髪 タコブネと虹
象徴画法に目くじら立てるな
魚の瞳孔が光り
蛇のごとく舌からませ
洞穴のような口腔から
熱病が滲みわたる

唇が裂ける
なぜ、もう世紀末なのか
林檎だ、林檎
記憶と虫干し 乾いた空

緑字生ズ 167 (魂くぐりの電車が)

167

魂くぐりの電車が
時間の濃淡を呑み込んでゆく
いとおしき大地、つらなるうらみの山脈
からみあう妬み、ふりきれぬ哀切
きっと発狂するような
とんでもない呪いと無限のトンネル
魚類をかきわけ 鳥類も
いたるところの花々も
橄欖、白鳥
鷲だって禿鷹だって
ジェット機だってビンビンなのだ
感覚を裂かれて夢となる
錯乱を裂いてからは、何も生まれはしない
この快速は
変しい変しい変りよう
ケストを巻いて
永遠の愛をつらぬこうと

緑字生ズ 168 (八重桜)

168

八重桜 夜の契りの炎の滴

別れ霜 墓地はだらなり灰まみれ

お粥腹、お粥腹 なんたるポリヒュムニアー

くれまどう水に流るる月、炎、首

はたたかな水に流るる草木と血の石

いまだしの眠りの夢よ 桜のいろ桃のいろ

はだごころ蛙のぬめりそのねむり

砂青く山吹に埋みて卒塔婆傾ぎ立つ

翳りなく流らう苦楽、血と百合と

墓をあばき、その生き魂の別の断面

緑字生ズ 169 (黒ずんでもおらず、……)

169

黒ずんでもおらず、澄みきってもいない
佇んでも、駈け出してもいない
肩を寄せ合うものも
抱き合って泣くものもなく
山巓を染める夕焼が
忘却のように
動悸をつのらせ 陥ちてゆく

ひじの季節
ツバサゴカイを垂れて
あらためて水の中に蠢くものを探る
疾走という火照り
衰弱という力
目前の死よ、扉を叩く破滅
心ひかるる波、波
振り返って巣へと戻るもの
青い闇の底で発光するもの
camera obscuraの中の
鏡に流れる無数の貌

緑字生ズ 170 (神が神であることから……)

170

神が神であることから始まる神への愛
汝を絶望する汝への愛
愛が愛であるから汝は失われる
神が神を露わにして
汝との凡庸な媾いに耽るから
汝の棄ててきた日常が回帰する
神が博愛主義者だから
愛される汝は裏切られる
神が背信者だから
信ずる汝は忘却される
汝がclitorisistだから
無限に苛まれる

死樹は生樹を嗤う
ああ、衰弱

緑字生ズ 172 (梁に吊られたトウキビ、……)

172

梁に吊られたトウキビ、タカノツメ
ぜる白樺 少女の煙
田舎を懐旧しながら
エラトーよ
地球のもろもろを擦り抜け
罌粟の実が一千一体のカンノンとなって
永遠の時間に浮かぶ