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未刊行詩集『strandにおける魔の……』01: 十時二十一分――土方巽へ

Super-string 遠隔力, 2006.8, oil, concrete panel, 90×180cm)

Super-string 遠隔力, 2006.8, oil, concrete panel, 90×180cm

十時二十一分

月が曇っていた
だから妙な気がしたのだ
その時間に
眠りの光の中に
家族とともにいたのだが
苦痛は存在すると
あの人は
肉体のきわみに達しながら
その不思議な笑いを
匿しもったまま
地球の核心へ
すりぬけていったのである
だから あの人は
復活してしまったのかもしれない

 土方巽へ
昭和六十一年一月二十一日

未刊行詩集『strandにおける魔の……』02: 魔女の翔く

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魔女の翔く

大理石の ふつふつ
あぶくの唄う沼底に
横たわりてあるもの
満月の
光の管に吸い込まれつつ
魔女の翔く

地平線すれすれの深夜
植物のごとく生い繁る
星々の住まうへり
銀色のあぎとの嵌まり込む

割かれた大地
脂の河がゆったり流れ
満月のいびつさに慄える
光の渓谷が
産毛の波を走らせる

なんの吉兆
赤黒く脹れる暗雲の
吹き溜りの中を
夜会服に身を包んだ
妖しい女が翔く

白い棺の並ぶ館
動物性の熱い吐息が
螺旋階段の途中で
金属の打ち合う音とともに
その闇に呑み込まれる

まっ白な棺の蓋を開けながら
無数の渦を解き放し
沼の面すれすれに
女の影が浮かび立つ

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』03: 女陰

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女陰

つつきでる顎
その落下
ささらさら 月光の波紋
なにごともなく水の朝が這い出てくる
ぷるっ 蛙の背の淫らな飛沫
翔破するものたちは
魔への階梯を裁断し
遠く 静脈の凪に……

ほほろほろ
剥がれつづける虹
金色に灼けた空がこわれて
ははぐくむ虫 星 不死
月という屍が
声あげる

きらめく夢の尻
小宇宙の謎を呑みほすもの
ほほとばしる腐敗
ききりさかれる谷間
くくらくら 青い動悸に
早朝は消化されて
魔の食道こそは
人民の涙を醗酵させる
地下室の悪意

じじくじく蝕まれた太陽
垂れこめる霧の膿
紫色の液体があふあふあふ……
ひとがたの岩がぬらり
気圏のぱぱしぱし
影を屹立させて
いま 宇宙の全貌がしめつける
午後のしなやかな革紐が

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』04: 魔の系図

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魔の系図

I 翼のある種族

マンドラゴラの繁る
夕暮れの赤い空
凍りついた眼球が降りしきる
うらがえる気圏
とどこおった太陽が
くりぬかれた内臓のように
海の中心で
アルコールを醸し出している

首の羅列
歯を剥いた子供
丘の尖塔に架かる鐘が
その声帯を切り裂き
ひびわれた古代彫像が
睡りの夢を破られる
血にまみれた唇
ころがる泡

首狩族の暗黒の肩
金細工銀細工の欲望の武器よ
健康な水夫
その妖しい刀
荘厳なる金切り声

マンドラゴラの繁る
動脈の熱い弁
肥大して瀑布をつくる
大腿骨や密生する毛の砂漠
むしられた鳥獣

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』05: 忍び笑う魔

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忍び笑う魔

夜のふかい残響
くらい奥深さから
霜のはなばしらが
うすく灼けついて
冷気をさそう
夢魔の
けだるいめざめ

たちのぼる細い光
腺病質の地平線に
くの字にまじわる
おぼろな太陽
その
影法師を涜して

一番鶏が啼く
呪われたものの声
森のけたたましい祭が
時の枝を渡っていく
磨硝子のように
雲がひとすじ流れていくと
平静をよそおった風が
純白に結晶する悪意をそそぐ

糊で貼られたように
宙ぶらりの朝が
くっきり停止している

いつのまに侵入していたのか
忍び笑いの魔は
光を日の出のまま
硬直させている

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』06:

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家具など調度品の 装寝具
まんべんなく 霜の降り
バイスィクル
その樹海に 逆さ吊りのピエロ
なべてのものものが混淆し
へだたるものの距離が密接
重層の海は夜の刷毛に舐られ
白銀金箔の繊細な飛沫が
瞬間の内部を伸びる
紙・布・毛毬・あ・あ・泡
建物という柔らかさに
ふんわりおおわれ
眼の塔は
傾いだまま破裂する

鏡の迷路の早熟な心理
テールだ テールランプの
生意気な所有者
密室に違いない夜だが
降りつづけるものものがある

棘の裏 棘の表のほっそりした空洞
すつぽりおさまった蟹の
こぼれ落ちた動悸よ
聳え立つ山々は矩形
棘は広がりはじめ
透明な尖を結ぶ

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』07: 棘という神話

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棘という神話

館は一対の強靱な鋼となって合わさり、融解寸前の痴呆状態を弾頭部に充たし、空隙へ向けてのめりこみ、突き刺さる、神話の、やわらかな、棘。

うすっぺらな透明の膜。繋ぎ目のないつらなり。それぞれに対応する隣接部のうらがえり。暗黒を反射する極端な硬度。擦過可能な膜。鉱物の繊維。動物だけが持つやわらかな細胞、その戦意。異常ななめらかさ。光と光に属さないものをはねかえす表面。薄墨色の燃えつきた足には、船底に付着する赤い虫が貼りついている。吃水線に向かうにしたがい、灰色から群青に、空色に、乾いた白色になって、無色透明の鎖された尖端部分となる。ある種の分泌作用と思われる独特の油脂は、およそ表面という表面を粉飾する死の錆。また、この断層構造は棘本来のもつ浸潤という機能に侵される。そのとき、痛烈に表面を撫でる語は次のものである。インチキの夜。咽喉ぼとけの林。海。なによりも樹海。あの、視線の凍りつく、樹海。

樹木、あるいは樹木に付随する外貌をもつ数種類の植物。その大半は乾燥地帯での火の風、または湿潤地帯における乾燥の兆候として見出すことができる。甲殻類、そして涸渇。針と唇。極小の結晶体。角。光のように丸みを帯びた、角。棘は単独でも棘であるような集合によって、外部に対して外部であるという二重性を内部に対し重合する。

透明な尖端は光にそそのかされて、硬く、軟らかい。その尖は永遠に塞されたままであるが、半永久的に開かれつつある。そのことは、外部の外部に身を委ねつつある尖端が棘の内部に向かっているという逆説を、その尖端が剥がれ開かれていくという表皮そのものに貼りつかせることに似ている。

神話という船は十二本の枠組みで作られている。その内部には通路のない部屋がいくつか用意されている。船の尖端部分には船長室、頭脳と配置。質素な家具、調度品。首狩族のミイラのお守り。丸められた羊皮紙、航海図。掌の中の地球。だが、ここは外側の海、尖った木々の浮かぶ樹海である。そして、永久に夜であるべきやさしい液体。ときおり、熱帯性の乾いた風が、古い砂粒をこの部屋に運ぶ。

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』08: 宛名の魔(名宛ての魔)

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宛名の魔(名宛ての魔)

宛名が
(背筋を ぞっと)
指先から離れ
(指先から離れる指の)
かつて見たこともない星座が
(通勤ラッシュ・非常用コック・滾るpussy)
ぽつねんとして
(火を吹く果実の)
果実の 素晴らしい棘が
剥き出し(の)に 街路を(突き抜け)貫通する
(眩く垂れつづける白昼)
午後
そいつ(土色の眼)は広告依頼主(が)として
(列車に対面している)
列車に対面しているではないか
(                            )
死体の足裏
舐める(舐め回る)
草色の毛を(毛叢を)灼き尽くすと
(白骨のように枯れた波しぶきが)
枯れた波のなみだ
桃色の貝柱を開いていく
(叩きつけられる桃色の貝柱)
(南半球の女たち)
南国の女の
乾いた頬
(吊られる)ぶら下がる
天然の首だ 頭だ 爪先だ
(足腰のこしかた まといつく冬)
冬が這う(這いつくばう人民)
禿山の頂きの黒い銃口は(が)

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』09: strand における魔の……

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strand における魔の……

浜辺に 磁気帯びる魚
繊い吐息 転がる無数のガラス玉
棘のある尾 棘のある砂の
棘のある毛が
崩れ落ちる
列をなして天上に消える熱

strand における魔の
褐色の爪 唇 真珠
ひからびた腔腸動物の死体よ
ナイフが反射する光
その先の 心臓という石
数々の背中が埋められ
青まだらの空 赤まだらの海

奥行きのない波がよどみながら
砂州の窪みにとどこおり
放射状に水をおかす
おかされて溶ける
錆色の渦

埠頭という石積み
黄昏の日差しが
雲の切れ目と水のわかれをむすぶ
ただその地点だけに眠る
神々の不倖な幻想

この地図の皺
指の脂のモザイク
鈍い光沢の尾根に沿って
strand における魔の
干渉作用が
引き裂いてゆく
反り返る紙の裏 薄いへり

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』10: 秋禊

秋禊

あああああ ああ
これほどの これほどの
んんん
まっさおな夜
主よ!
御身の栄光ある生体解剖よ

伝説という伝説
刈り取られた歴史
街という舞台
熟れた黄金色を発光する天末線
かさなる かさなる 人影が
誰の人影
折り重なる 折り重なる 得体の知れない首
転がる 転がる 輝かしさ
のけぞる娘らの股ぐらを流れる
ほそい ほそい 器官の奥深く
主よ!
御身の偉大なるみ技によりて
冴え渡る星々が張りめぐらされる
主よ!
おおおおお んん
んんんんん
何の薬物効果
何の副作用!
御身の糞溜りの虫どもめ

あああああ ああ!
朝は口から始まり
そそけたつ鎌首に
死に充つる幸いのあらんことを

未刊行詩集『strandにおける魔の……』11: 眼の街

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眼の街

I 裂かれた眼球
うす桃色の襞すじに
街の景色が ばたばたとまり
モンシロチョウの
あやうい触角の叩く音ひとしきり
 あの日 深い欲望のうちに おれの陰茎が油を飛ばしていた
そそけよ その燃える夢の紙片
黄土色にうちしずんだ白目のやぶにらみ
ひくひくと 低い呻き声が
しだいにかさなり 日暮れの八百屋に
冷凍パセリの ぐったりした束

そのとなり
肉屋の店先に吊るされた
おれのロースの
赤い湯煙のとろりと沸きかえる
生唾のみこんで
一歩あるくたびに
西陽が突き刺さる

姉さん! おれは見たこともないあんたの名を呼びつづける 柔らかなベッドで抱きあったはずのあんたに秘密のキスマークを刻む 姉さん! あんたは生まれることのない盲のおれをいつも子宮の奥に匿していたんだ あんたはそのことを思い出さないために鋭い針金で入口を塞いだ 姉さん! おれの恋人 おれのカアサン おれの浅黒い馬鹿笑い 姉さん! 痛いよ あんたの肉がそそけて見えない みんなあんたの尖った強迫観念 悪性金属 むうっう 痛むよ 姉さん!

だから 闇
ぼっと浮かぶ裸電球の下で
おまえは胴か脚か長い鼻なのかと 警察官の職質
おれの細い眼の痕跡から
トマトソースのように垂れさがる
どんよりとした汚物

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』12: 徴候きざし

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徴候きざし

青いGomorrha 青いSodom  青い夜
伝説の卵の中の 黄色い虫
こびりつく鍋と宇宙
炙られどおしの数週間

七つ星の数珠つなぎ
七つの文字盤の毛が
七つの括弧を撫でる
夜の深い呪術に
紙製の白い眼がふりそそぐ

うす黒ずんだ肉襞
このかすかな街の地図
ふたまたみまたよつまたの
あおあおあおとわかれゆく
入口出口入口の
この海洋をたたえる壜の中には
うすっぺらなハトロン紙の
生命の起源の封印

液体の街に
文体は閉じられていく
綿密な区画整理の中を
妄想的な足どりで
ひょいと振り返ると
影が影の中へ流れ込む

睡る樹木の
燃える林檎のように吊られた首は
発送人不明
光と彼方の力の
人類と毒虫の間に埋められた食物図鑑は

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未刊行詩集『strandにおける魔の……』13: 遮断機 気泡の……

遮断機 気泡の……

気泡の
あてどない気泡の
斜行するあてどない気泡の
ふぞろいに斜行するあてどない気泡の
手 不思議な光を発する手
力に包まれた奇跡よ
哀しみを暖める心
空間にあらわれる貌
熱をそそぎ
命をあらう

もてあそばれる世界の後に
木質のもてあそばれる世界の後に
過熱する木質のもてあそばれる世界の後に
運河が過熱する木質のもてあそばれる世界の後に
ふぞろいに運河が過熱する木質のもてあそばれる世界の後に
磁場 ふぞろいな
疾患の 磁場
浄められる疾患の
迷い道で浄められる疾患の
他愛なく迷い道で浄められる疾患の
爪の裏に他愛なく迷い道で浄められる疾患の
貼りつく爪の裏に他愛なく迷い道で浄められる疾患の
朝 貼りつく
気の違う 朝
いましめの 気の違う
花束 気の違う
こわばる 花束
ひとつだけの こわばる
眼 ひとつだけの
ふれられぬ 眼
管 ふれられぬ
ゆるむ 管
管 ゆるむ
うずくまる 管
管 うずくまる
くだの 管
管 くだの
みそぎの 管
管 みそぎの
うずくまる 管
したたる液体にうずくまる
曲折部からしたたる液体にうずくまる
吊り下げられた曲折部からしたたる液体にうずくまる
燃え落ちる吊り下げられた曲折部からしたたる液体にうずくまる
遮断機 燃え落ちる
………………………遮断機

未刊行詩集『strandにおける魔の……』14: astérisque

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astérisque

正体不明の言葉 律法 体腔にある鍵穴
荘厳なる儀式 赤い運河上の秘蹟 冒頭のインデックスに封入される書物 毒物の体系とその媾い
建造物の韻律 法の解除 忘失 語が語を喰らい始める ある予感 抉られる
舌がふたつに 部族の海 聖らかな頁
astérisque 恒常的なハンモック 腸詰
入口のない出口 古代都市
準備される偏頭痛
切り取る 吹きかける 包装 顔 づたいに
橋桁が壊れかけ 読み込まれる眩暈 記憶される 豊かな
沃土 中心部を掘り返す 老婆と夜
熱病 欠如 潜在能力
偉大な魚 満天の
管 泡 錘の中にある
一連の続発 窓 筒抜けに
唱みあげる 旧字体の絡む
事態の急から
機能 弁証 空っぽの軸まで
毛の束と背表紙 寝台と裏切り
ササン朝ペルシアの 朗々たる
弦 帆立貝 三頭の馬を凝視せよ
道端の火災 さらに唐突な手首
命題 鎖 小動物 エーテルを吸う
失効 デーモンの下婢はしため 疣のある蛭よ
瞳孔とは棲家 航路の再現という
正直な限定性 はは 虫のたぐいめ
自然とは 旧制がぐるり旋回 メビウスの環
白壁に 銃弾 絞首の巨木 人も離れ
花壇は奇怪に生存する 放尿する ああ苦痛
面会人が訪う 単刀直入な鉱石
眼が潰れるぞ!

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