魔の満月 詩篇「楽天地」(栄光は薄暗い小部屋の中で……)

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塩と光との配合で建立された門柱には青鬚の年代記が誌される
(そんなものは一文の値打ちにもならないのだよ)
旋回する塔の鎖をひきちぎって目を覚した少年はどこのどいつだ
いっそ石棺の悪魔に喰れてしまえ
胃を象った館は水質検査票とともに考古学者の手帳に封じられる
歴代の領主よ
その顧問官
料理人
玩具製造業者
そしてなによりも不死の子宮よ
結託して婦女子の齢を数え上げるなどは失礼千万である
目を閉じよ
耳を塞げ
あらゆる汗腺を絞れ
おお雲を掴むがごとき眩暈のうちに織物が扮飾される
市民は誤植を愛す
焔のような記憶を抱いて失楽する
家具や調度品とりわけ蝶番を誂え鳴物入りで婚礼の祝に赴こう
白地に黒を塗たくる新聞のように
しかし一段と豪華である
(赤い空に貼られた満月とそれを斜めに掠める機械仕掛の蝙蝠が翌朝には純白の空洞に転ずる
ふふんこいつは蝙蝠の屍を映す蝙蝠のもう一方の眼球に相違あるまい)
室内が縮む
花嫁の罪な喘ぎに歩調を合せ
道化師が通行人の笑いを誘おうと子供たちの脳味噌をぺちゃんこにする
飛白かすりの浴衣で薔薇色の肌を包んだ小意気な姐さんが立ち止りちらと流し目を呉れる
夕映が看板や橋桁を染めてゆくと小児無料開放の祝日は永遠に失われる
添景には回転飛行機が眩い
部屋が可憐に歪む
幻の聖霊受胎が夥しい
番人はひと声吠えあげるとくるりと踵を返し後足で土塊つちくれを蹴って銅像のように殺風景な夜空に溶け込んでゆく

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