旧作:197404: 魔の満月 第一部(習作)

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夢が降り出すと きまって弾ける音がする その中には醜悪に見開いたままの眼球が棲む 線路の下を何度往復したろうか その度に 忙しく昼間の肉体が弾ける 幾何学的な肩を持つ彼の疾駆する影は光の如く無彩色に躓く すると 如何だ 突然魔の手に掴まれた様にぴくんと上体を顫わせ棒状に伸びてぶっ倒れる 命がけのアナウンスが冷風の代わりに細い針金を吐き周囲の夢を裁断する 夢が降り出すと きまって弾ける音がする その中には 醜悪に見開いたままの眼球が棲む 乾いた空気の中で意識を垂直に立てると接ぎ目の部分が膿み始める 彼は浸蝕されながら何度か抵抗を試みるがそれを圧倒する様に手足を由由に操られる 球状の睡りはおだやかに呼吸しながら汚物の様に内臓を流す そのとき 一瞬にして半透明の膿がのっぺりした顔を包む 窒息寸前の彼の瞳孔が裂かれ 身を翻した彼の腰が魔の手に掴まれた様に砕かれる 夢の中に正体を現わすそいつは 霧の様に降りかかるもので夢を包む幾千もの襞を動かす粘膜の様でもある 彼の必死の反撥を無にするのはそいつの語り掛けの所業である 言葉を使用しないそいつの詩は自分自身を重さと色彩変化に紛れ込ませることによって異様な形態を続々とタイプの様に送り込む 彼はてんで理由も判らずにその象形文字の羅列を解読させるを得ず 未だ 息切れ状態のままずるずる深みへはまり込む そこは何もかもがまっ赤に光っている謎のA地点であり盲点の如くほんの一箇所を形成する その中には 醜悪に見開いたままの限球が棲む その中に棲む眼球は肉の襞を持ちながら何ものも映さずに擦過すべき謎のB地点であり 痛点の如くきまって繰り返し現われる さあて 如何だ 彼はマリオネットの様にA地点とB地点を往復しながら宙ぶらりんだ あの長い髪の毛が幾億もの虫に引っ掴まれた様に宙ぶらりんだ 体毛が異常な速さで成長を始め 彼は宙ぶらりんの黒い塊の中で胎児の様に縮こまっている 夢が降り出すと きまって弾ける音がする 夢が降り出すと きまって弾ける音がする 弾ける音が彼の鼓動に同調すると激しい速度で縮こまる彼 分裂的な変化を伴いながら波状的に彼をすっぽりくるめる色彩が強烈な束となってA地点とB地点を裁断する 早鐘の様に刻一刻とその長さを縮めていく時間 その時 ひょっこりと姿を現わし始めるそいつはまだ靄の如く不定形の謎Cであって暗闇を介在させる呻き声に慕われている その慕われ方も一風変わっていて足から舐め上げるというやり方で造形美術家の様に執拗である 観念全体が響きわたるそいつの詩はともすると沈痛で意味ありげな表情を呈しはするがそれこそ全くの見当違いである そいつはまず拒否の声を響かせる それ大胆不敵で勇猛果敢な行為であって そのため彼の世界は金縛りの状態に至る それから己れの体を鮮明な被写体にまとめ上げようとする 粉末化する夢がその中に充填されていく 照準を合わせていく眼球が薄暗いその場所で苦しまぎれに転がり出す まるで 禁断症状の様に紫斑を吹き出しそれ自体で深い亀裂をおぴただしく作っていく 未だ 息切れ状態のままずるずる深みへはまっていく彼は 未だ 息切れ状態のままずるずる深みへはまっていく そいつは腕力にものをいわせて彼と彼の世界を空中高く抱えあげる そいつは悪意に充ちた罵言を吐きかける それから思い直した様にそいつ自身謎のD地点に変貌する D地点とは創世紀の箇所を思わせる

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