(こわれゆくもののかたちシリーズ) さなぎ

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 さなぎがふくらみをまして。
 はじめのころ。あおむしのはいまわる姿がきみわるく。部屋のなかにおくことをためらい。まどのそとがわにつるしていたが。
 しばらくするうちに。ねむたげにうごめくみどりいろの虫に愛着を。
 それで。
 まどのうちがわの棧にくぎをうち。そこからつるすことにしたが。
 虫はもうさなぎになっていた。
 いってみればさなぎはミイラ。幼虫がさなぎになってしまえば。外形にへんかがおこるとは。
 まいにちみつめているとそうでないことがわかって。さなぎがうちがわからつきあげるようなびみょうな動きをするたびに。ぶらさがったからだのいちぶがふくれてきて。表面はかさかさにかわき。つやをもった鉱物のようなかっしょくにかわった。

 画用紙にえがかれていくむしかごのなかの世界。晩秋のような暮色にあふれて。
 きいろい色彩はみどりとあわせると軽快で新鮮な。せいめいのはつらつさとした印象が。茶系統といっしょにすると枯れた老齢をおもわせるのだが。
 わたしはそんないろばかりをつかう。このさなぎは死んでしまっているのではないのかと。
 かごのなかのやさいは喰いあらされ。すっかりすいぶんをうしなう。いんしつな壊疽のいろのふはいをへることなく。生気のぬけがらのようなミイラとなって。
 くずおれていた。
 なつのひざしが一瞬にしてふはいからすくったの。そこにはいかなる生命作用もありえないの。
 えいえんに小さなかごのなかでぶらさがりつづける蛹も。きょうれつななつの陽光にさらされ。ついにくずれさる。

 わたしはさなぎがゆれているのを見ていた。
 風のせいだとおもいながら。えがきおえたばかりのスケッチをみぎがわの画用紙の山にかさね。木目のうきでたつくえにひじをついて。
 眺めて。
 さなぎはみずからの糸とかごの天井との接点からゆれているのでは。さなぎはからだの中央のぶぶんをうんどうの起点にして。からだをくの字におりまげたり。とうとつでぎごちのないうごき。
 さなぎは生きていた。そのなかから蝶がはばたきでるのだろう。
 わたしはつくえのみぎにかさねたスケッチに時刻をかきくわえ。
 さなぎがうごきだすとしるし。
 もじのいろは観察記録のどこにももちいたことのない。
 あかいいろ。

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