(こわれゆくもののかたちシリーズ) さなぎ

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 ちょうちょうが。ほら、
 いもうとのかんだかい声が。いねむりしていたわたしをゆりおこし。あごをつたってこぼれたひとすじの唾液がつくえをぬらして。半ズボンからはみでたふとももにふれる椅子がひんやりと。
 わたしはぼんやりとまぶたをあける。
 かたわらで五歳のいもうとがひとさしゆびをつきだしている。
 その方向をみあげると。
 むしかごのなかでさなぎをやぶり。くしゃくしゃの羽をひきずりだそうと苦闘するちょうのすがた。
 たけざいくのかごが虫のもがくのに刺激され。
 こきざみにゆれうごいていた。

 きみわるい、
 もういちどいもうとの声がした。ふりむくと妹がいろえんぴつをにぎりしめて。
 わたしには幼いいもうとがどうしてそんなことをいっているのかわからない。
 なにげなくつくえのうえに視線をやると。かきあげたばかりのスケッチが意味のないまっかな線でぬりたくられて。
 その線がさなぎをほうかいさせ蝶をうみだしたかのような錯覚にとらわれ。
 そのとき。
 理不尽な激怒にかられ。いかりが肩から腕へ。てのひらへとつたわる明瞭なかんかくが。
 突風だった。わたしの腕はとっぷうのように旋回し、五歳の少女をなぐりつけて。
 いもうとは一撃をうけてリノリウムの床にはいつくばう。恐怖でほうけたつぶらなひとみをみひらいたまま。
 おおごえでなきわめくかわりに。憎悪のこもったまなざしでわたしをいすくめ。
 きょうだいにあるまじき得体のしれない異物にむけられるまなざし。
 わたしはこごえるような視線をはねのけて窓につられたむしかごをあおいで。
 羽化したきあげはがしわだらけの羽をのばそうとよろめいて。
 わたしはかごをつかむとつりひもを渾身のちからでひきちぎり。
 こわきにかかえたまま部屋をとびだして。

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