ベルナール・パスケ(散文詩)

1 2 3 4 5 6

 パスケがその小市民的な家で独り暮らしを続けていたからといって、近所の人間から一種特別の性向があるのではないかと疑われているわけではない。むろん、フランスのことだから、そのような趣味の人間は少なからずいるわけで、しかし、かといってパスケが突然そのような趣味に陥ったと思われたわけではない。
 実は、パスケには三年前まで、でっぷり太った女房がいたのだが、若い燕でも作ったものか、いつのまにかいなくなって、それでもその女房を怒り狂って探すようなこともしないで、生活の不自由を感じないようにいつものように穏やかな暮らしを続けていたのである。人当たりのいい、にこやかな小金持ちくらいに思われて、とりたてて目だつような人間ではなかったのだ。
 ところが、つい三カ月前に、外回りの壁塗りの仕事を頼まれていた不動産屋ピエール・マルクリーが蒸発してからというもの、パスケの二人の丁稚が急に辞めたいと言い出し、その理由を訊ねても押し黙ったまま決して口を開こうとはしなかった。しかし、人の噂というものは口さがないもので、女房に逃げられたパスケがよからぬことをしていたのではないかという噂がたったのである。
 ピエール・マルクリーという男は、口八丁手八丁、押し出しもいいし、確かにフランスの青年らしく実に美男子然としていた。パスケの店に住み込みの若い丁稚が、ピエールの邸宅の外装にしばらく通っている間、パスケは仕事の点検をかねてこの若い成功者と何度か会っている。もちろん、仕事柄、ピエールとのつきあいは短いものではないし、その辣腕ぶりには敬服もしていた。ただ、パスケはピエールの成功の蔭にある大物がいるという噂を耳にしたことがある。

 丁稚の一人、ジャンは十五歳で、金髪の、まるで女の子のような少年であったが、このジャンがピエールに実に気に入られていて、それが口さのない近所の連中がああだこうだと臆測を逞しくして吹聴する原因にもなる。パスケもジャンが純金のネックレスを隠し持っていたのを見つけて、ひどく叱りつけたことがある。それはピエールから発したものだったのは言うまでもないが、このときからパスケの胸のうちにもなにやら不快なものが生じていたようだ。

1 2 3 4 5 6