魔の満月 ii – 3(天幕を裁断する玲瓏な光が……)

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寂黙の苛重の底で 一角獣やらキマイラやらゴルゴーンなどの恐ろしい化物が舌舐したなめずりしているに違いない
黄金のサンダルは地面に降りると闇の中を青白い光でぼんやりと照らす
あの冥府の入口に咲くといわれるネモフィラの斑点のある紫色の釣鐘
黒い根と乳白色の花とをもつモーリューの魔除けの匂いが漂う
ミュルラの木が不吉な枝を伸ばしている
艶かしい色をした罌粟が眠りの神ピュプノスを招いている
まさしくかつて太陽神が姿を顕現させたことのない秘境
エルドレはぞくぞくする
恐怖の囁きに唆されるとサンダルめがけて飛びかかる
期待が捉える空しい光
エルドレは暗闇に輝くサンダルを素足に履いてみる
躯がいっそう軽くなる
耳を澄ますと あの魂をひきずるような剣呑な音とは異なった優しい水音が闇の奥から聞こえる
エルドレは中宇を浮游しながら打ち寄せる水音を求めて進む
漆黒の洞窟に風が戦ぐ
徐々に潮の香りがする
向こうから光が射し込む
宮殿の北の玄関は彼処に違いない
洞窟は水分を帯び始め ガレー船の碇泊する入江は近い
エルドレは眩い光の彼方に飛び込もうとする
だが洞窟の向うに見える海は潮が引き 濡れた岩盤が露出しているのだ フネは何処へ消えたのだ
洞窟の縁を囲む暗褐色の岩が産み落とす円い光華の世界を見て眩暈する
おお 光の環の中枢で あの大鷲の短剣がおびただしい光輝を放つ
風化層のひときわ青い巌を突いて

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