魔の満月 iii – 1(頭脳から天球が生ずる……)

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iii – 1

頭脳から天球が生ずる
古びた血から大いなる四海と河川が生じる
そして塩辛い汗からは雨雲が生まれる
泥濘ぬかるみの中を疾風のごとく駈け抜ける七頭の悍馬
神と龍の誉れを戴いた黒鹿毛の駿馬が敗れ去る
人間は宇宙に巣くう蚤だ
偸食の民の頭上に舞う紙吹雪
相手は俺だと言いざまナイフが奇静脈を破る
よしてお呉れよと三十路を越えた女の声
小僧奴と一喝する地廻り
友よ
兄弟
またしても邪魔をするか
時の器に旨酒を注げ
坊主に習った飲酒法で世界の涯まで肥大する
おお因果の正理を無視する幻惑
下駄を履かせて小鰭の鮨でも売らせたい
壁に吊られた死の舞踏の沁るような髑髏の頤
物質の胎内を巡る底知れぬ小径
地球は悪名高いお前の懐中時計だ
斧で天地を開く
五色の石を煉って箭を作る
木を穿って焔を生む
混沌は束の間にうがたれ死をもってて汝らを造物する
詩人は墨に塗れた手で女を愛す
心中に失敗して青春に悔なし
夜々同じ道を辿るのは結婚生活第一の苦行
公園に通じる坂から白楊の樹上に座す膿んだ満月を見る
血の味が罩められた光は闇夜と媾い 牙の生えた鏡が熱い息を吐く
四つの門歯と十二の臼歯をもつ獣の大移動
屁をる美女たちよ

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