魔の満月 詩篇「河図洛書」(低く垂れた倉庫のゆくりなくも……)

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漆喰を好んで這い上がる架空植物の繁雑さは沈静などという俄仕立ての廻廊とは異り画布に塗られた難破図とともに無数の蛇を受胎している
まさしく海底住居の前庭にあらゆる鮞のままただ一条の白線のたゆたひ
海胆から発する分泌海上の飛沫に埋れながら渦紋をなす怪鳥の群
糜爛をつづける生体の波間に死と誕生の溶け合った香料が供えられる
白百合と黒薔薇の遺愛に包まれた裸身の女神
おおその祝福すぺき刻限よ
造物主の首が刎ぶ
水底の葱や大蒜から交響楽が洩れる
書物の角はまだとれない
林立する朽木はなだらかに謫居されゆく真砂に均合いへたへたと堆積する
この執拗な調整は脱誤の劈開面にみられる汎神論風土であるのか
諸子の青黒い呼吸器に見たててこれもまた衍文に過ぎない
寸足らずの異質な人物は消去可能だ
鏡によって構成される宇宙のとばぐちに朝月夜の刺青が美わしい
秋は回覧板とともに訪れる
切り立つ隆起に塞された淡水湖の岸辺で水平に幹を伸ばした灌木の茂みが重厚な濛気を漂わせている
黄色く反吐あげた西の空一面に棘を撒きながら白鳥が飛んでゆく
狭い間道沿いに清澄な潮を巡りゆけば銀色の腹を月光に翳してぴちぴちと魚の戯れる涵養の水域が拡がっている
そこで年代もののコニャックを傾けよう
ビール壜を叩き割ろう
足首の形をした灰皿は不義密通のある種の薬学理論によって捏られている
なんぴとの記憶をも退ける警句・冗談のうちに恋人を求めて入水した少女の儚い伝承が残される
モニュメントとは達筆な案内状だ
青銅の人魚像は疾うに孕んでいたのだから
それゆえ茫漠とした悠久ではなく俄然明瞭なる輪郭を現し古代の景観を圧迫している
氷河期の吃水線は好色な分類表であるにしてもソロモン王の壜にはたして夢の材質は詰っているのだろうか
机上の頭蓋骨には一切の通信機器が組み込まれその楕円形の帽子に太白星の軌道が印されている

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