魔の満月 詩篇「河図洛書」(低く垂れた倉庫のゆくりなくも……)

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まるで前世紀の巨大な建築物を嵌め込んだ羊皮紙の伝説のように
目配する数百のフランス人形のコレクションはさておき花柄模様の大陸移動の痕跡が鏡部屋の円天井に浮ぶ
賞味すべき巴旦杏に宿る世界聖霊よ
学究猫の首には鈴が肝要だ
判別できぬほどの惨めな打擲を与えよ
強化硝子を滋養にして育つ茸よ
見事な毛並を逆撫でし吸い殻のように加筆せよ
瓦礫の割れ目ごとに刻されたものこそ理法を越えた暗号
アマルガムの突飛な夜
火の球からこぼれおちた地球
振子に装備された殺意と兇器よ
海底に遺された幾何学的な通廊が透明な大理石を皮切りに失われた王国を悼んでいる
咽喉仏は呪縛の突端である
そこには船具などと等しく粘膜を防護し毒物を吸い上げる乳白の液体が塗布されている
だが牡蠣の殻に刻まれている象形文字はその近傍独特の食肉海藻の所在を秘している
氷点下の海流のうちに熟す果実は黄金の唾液をしたたらせる
それゆえ一層濃度のある塩水が湧き出るのだ
塩分に限らず鶉斑のあるものの浮游
天鵞絨のように横たわる大陸棚は文明の遭難現場である
古代都市を戴く大河
赤土に塗れて出生の源へと馳せてゆくのか
おお地図の鼻孔よ
壜の中に突き立つ首よ
鞭毛の一面に植わる胃壁の海岸から一海里離れるとそれらの亀裂を隠匿している大陸棚の底から分泌腺のすさまじい破裂音が轟く
衒学的な大陸を頭脳のうちに建立せしめて出生の源へ翔せ抜けてゆこうとする人非人・ひとでなし・ひとがたの夜空は果して満月の奇怪な実験に展かれるであろうか
その累々たる歴史的な土壌形成とは塩分結晶の何という建造物
また山脈と海とを分つ綾羅錦繍のなんという母胎

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